月花物語

□二、新しい宿
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翌日。原田は和音から聞いた話を土方に報告。反応は大方予想したもので間違いは無かった。
怪(あやかし)だ陰陽師だなどと容易に信じられるはずもなく、鬼副長は鬼の形相のままただひたすらに黙していた。


「……」

「話は以上だぜ、土方さん」

「……」


この黙りよう。斎藤も良いところだと内心苦笑する。土方は若干跡が残るまでに眉根を寄せ黙考した後小さく口を開いた。


「和音は今何処に居る」

「ん?ああ、縁側で空でも眺めてるんじゃねえか?」


多分、アイツは基本そうしているからこの時も例外無くそうなのではないか。そう告げると土方は立ち上がり、近藤さんと話してくると言い残して去って行った。



***



「和音」


土方に呼び止められて振り返る。別に怒っていない、普通の表情の彼が立っていた。これは珍しい。眉間に皺も寄っていなければ青筋も立っていない。何だ、こうして見ると原田並みに綺麗なんだなと観察してみる。


「原田から話は聞いた。で、近藤さんと相談の上、取り敢えずだがお前を新選組で保護することになった」


「……はあ?」


唐突すぎて事情が飲み込めない。馬鹿じゃないんだろうかと少し呆れた。
いや、だって。あんなトンデモ話を原田ならまだしも土方に信じてもらえるとは、予想外も予想外である。嘘は言っていないが、どんだけお人好しなんだろう新選組はと少し心配になる程度には意表を突かれた。実はこいつら馬鹿なんじゃないだろうかとか、思わなかったと言えば嘘になる。


「そのまんまの意味だ。怪なんて意味のわからねえ連中と関わってる女を、新選組が黙って見過ごすとでも思ってんのかテメェは」

「うん」

「馬鹿野郎。原田の話じゃ、お前宿無しだろうが」

「まあ、宿は確かに持ってないけど、でもなんで保護なんだ?何処の馬の骨とも知らない女を、幕府に仕えてる組織がそう簡単に――」

「ごちゃごちゃ五月蝿ェよ。良いから黙って厄介になってろ。近藤さんが良いって言ってんだから良いんだよ」

「まあ、それなら黙って厄介になるけど……」


何だこの都合の良すぎる展開は。上(幕府)から、圧力でもかかったのだろうか。幕府とは縁を切ったはずだが。
なんにせよ。
馬鹿なんじゃないだろうかと思った。
思ったが、それ以上に、自分の話を耳にいれてくれたことが嬉しくて、つい笑みをこぼす。
だからまあ、これでいいや。
大人しく新選組に居候させてもらおう。なんて喜んでしまう自分の単純さにほとほと呆れながら、土方の言葉に首を縦に振るのだった。





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