月花物語
□四、空虚
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「総司との巡察中に、千鶴がお手柄だったんだぜ?」
「千鶴が?」
何故か。
最近は毎晩のように原田が部屋の前に訪れては、暇潰しに雑談をするというのが日課になっていた。
まあよくわからないが、
楽しいので特に気にしていない。
「千鶴がたまたま入った店に不逞浪士が居て、それを総司が取っ捕まえたんだよ」
「それは……手柄なのか?」
「まあ、手柄っちゃ手柄だろ。古高捕縛出来たんだし」
「山崎や島田の労力が水の泡だな……」
そう言ってやるなって。
月の光に照らされた原田の顔はいつもの二割増しくらいに綺麗で、それが笑うものだから、なんとなく気恥ずかしくて顔を反らした。
いやいや。
カッコいいとか思ってない。
断じて。だ、ん、じ、て、思っていない。
最近気付いたことだが、新選組の幹部は、というか幹部に限らず千鶴や山崎までも、何故か皆顔立ちが綺麗なのである。なんなのだろうアレは。なんで皆綺麗なのだろうか。
「ん?そうか?」
「ああ。ここまで美男美女が揃うと寧ろ気持ち悪い」
「まあ、確かにそうかもな。類は友を呼ぶってのは、こういうことなのかも知れねえな」
「しかも、ほとんどの奴が無自覚なんだ。意味がわからない」
「そういうお前はどうなんだ?」
「私は可愛い自覚あるぞ?可愛い奴が自分を可愛くないなんて言ったら、本当に可愛くない奴が可哀想だろ?」
「まあ……そうだな」
そういえば。
「原田や土方は、頻繁に恋文貰ってるらしいな」
「おいおい、誰から聞いたんだ?」
原田は苦笑する。
えーと、誰から聞いたか。
あれ。
誰だっけ。
あ、そうだ思い出した。
「沖田だ。例の如く『近藤さんはなんでこんな役にも立たない女の子を』云々言うついでに溢していった」
「総司か……。あいつ、千鶴にも同じようなこと言い続けてるらしいぜ」
「良いんじゃないか?世の中にはいろんな人がいるんだし、沖田のアレは別に『どうしても許せない』とかいう部類でもないだろ」
「千鶴は気にしてたみたいだけどな。お前は平気なのか?」
「まあ、な。斬るなんて言葉は聞き慣れてるから。でも千鶴は確かに気の毒だな。ついこの間まで、普通の町娘だっ
たのに」
本当気の毒だ。
理由はよくは知らないが、あんな、如何にも「女の子」って感じの千鶴がこんな男所帯に住まわされるなんて。
しかも男装までさせられて。
……。
「ま、千鶴のお陰で、料理とか掃除とかはかどって、おまけに丁寧だから皆有り難がってるけどな。土方さんはなんであんなに働きたがってるのか不思議がってたが」
「……」
千鶴、男装してるんだよな。
私は、しなくて良いのか?
「和音、どうかしたか?」
「いや、その、千鶴が男装してるのに、私はしなくてもいいのかって考えてたんだが……。まあよく考えれば、私は身なりが子供だから別になんの問題もないか……」
自分を自虐する形になってしまったが、
この容姿も、こういう状況では案外便利なものである。
「ま、確かにそうかも知れないな。じゃあ、俺そろそろ行くわ」
「ん、なんかあるのか?」
「ああ。ちょっくら斬り合いにな。古高の仲間の長州が、今晩会合を開くらしい」
「……お前、実は今私のところに来ている場合じゃないだろ」
「ま、そうだわな。じゃ、行ってくる」
「ああ。気を付けろよ」