月花物語

□七、恐れるもの
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羅刹を扱う研究について、詳しいことは知らない。

だが、自分は被験体だったのだ。研究成果と言えるのかも判別できない、残酷な狂い人形を幾つも見てきた。


それがどれほど酷いものかなんて、様子を見ていれば猿でも犬でも雉でもわかる。


だというのに。
だというのに、そいつは、綱道は研究を続けた。

何人も何人も何人も犠牲にした。


和音だって人のことは言えない。
その結果を何度も見届けて尚、実験台に身体を晒していたのだから。





自分だって同罪。





見てみぬフリをした。
何も知らないフリをした。
だが、罪の意識は大きくなる。








ある時気づいた。
羅刹は、あの化け物は、他でもない自分の血の所為で狂ったのだと。
何もかも、自分の所為なのだと。










それに気づいて、和音は幕府と縁を切った。



酒癖の悪い研究員に再び連れ去られそうになったとき、偶然襲い掛かってきた怪(あやかし)に頭部を引きちぎられるその男を離れたところで見殺しにした。




言ってしまえば、あの男は和音が殺したようなものである。



しかし後悔はしていない。



する暇もなく、新選組に引き取られた。







正直、安心していた。
綱道と同じ幕府の元に匿われているなら、居場所を知られることはないと。


まさか、綱道の寝倉がその新選組だなんて予想もしていなくて。













またあの悲劇が繰り返されるのかと思うと、どうしてもその場には残れなかったのである。







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