月花物語

□九、二条城警護
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「二条城の警護に千鶴さんが同行……」
「ああ」


例の如く原田から情報を入手した和音は、いつに無く落ち着いた声色で呟いた。


「……あまり、感心できませんね」
「なんか問題でもあんのか?」


最近、原田だけが極々稀に見掛ける和音の『素』の表情。
いつもならばそれでも中々拝めることはないのだが、今は何がどうしたのか、それを前面に出してきている気がする。





和音は指を顎に添えて、思考しながら口を開いた。



「問題と言えば問題ですが、そうでないと言えばそうでもない……」
「なんか気になるのか?」
「はい……。その、池田屋襲撃の際に風間という男が現れたと、そう話してくれたのを覚えていますか?」
「ああ。ついでに言うなら禁門のときも、だな。こっちは話したっけか?」
「いえ、沖田さんから聞きました」
「総司から?」
「はい」



意外である。
沖田と和音は、仲が悪いようだと踏んでいたが。
そんなやり取りをする関係だったとは。



「いえ、斎藤さんに愚痴を雫しているところを見掛けて、そのときに」
「ああ、なんだそういうことか。ま、それなら有り得ない話でもねえな」
「ですね。私だって、別に沖田さんを嫌っているわけじゃないんですから」
「そうなのか」
「はい、そうですよ」



ふわりと微笑む。
何故か、童顔であるはずの彼女のその表情が年相応に見えて少し見惚れた。

本人には絶対言えない。
『見惚れた』はともかく、『童顔』は禁句である。



「……で、風間がどうかしたのか?」
「はい。ただの勘なんですけど、また何か仕掛けてきそうな気がして」
「なんだそれ。根拠でもあんのか」
「あくまで勘ですから、根拠と呼べるものは何も……ただ、風間という名前に聞き覚えがあって、少し不安というか、ですね」
「……?」
「あの……いえ、気のせいで終わってしまえば良いんですが」
「風間ってそんな悪名なのか?」
「私も良くわからないんです。聞いたことがあるだけで何処で聞いたのかもはっきりしませんし、ですがそれでも、池田屋と禁門の件だけでも十分に警戒すべき対象であるとは思います」
「まあ、一理あるな」
「はい。なのでもし風間が現れた場合のことを考慮して、二条城に一般人の千鶴さんを連れて行くというのはあんまり良くないかな、と」
「そう、だな。あいつもあいつで危なっかしいし、土方さんに伝えとくか……」
「お願いします。あ、それと」
「ん?」
「あの、私も連れてって貰えませんか?」
「……和音も?」
「はい。私なら常に千鶴さんの傍に居られますし、一応、戦えますから」
「……そうだな。じゃ、それも土方さんに伝えとく」
「はい」








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