月花物語
□十四、違和感
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不知火と攻防を張っていたはずが、いつの間にやら風間や土方らの方では戦いが終わって居たらしい。原田も槍を引いて、不知火も退却の準備を着々と進めていた。
が、なんと間の悪い。
和音が来た。クソ、もう少し粘れなかったのか総司。
「止めろ和音!」
和音の振り上げたその手を止める。退却間際だった風間は、それを見て笑いながら消えた。実に愉快そうだが、こちらは不愉快極まりない。
待て!
なんとか原田の拘束から抜け出そうとする彼女の身体を、更に力を込めて抑制した。
「和音!」
「放し……ッ」
「止めろよ……殺すなんて、考えてんじゃねえ!」
「風間はあれくらいじゃ死なな、」
「そうじゃねえだろ!」
そうじゃねえだろ。
ああ、そうじゃねえ。
和音は違う。
鬼だろうが羅刹だろうが人間だろうが殺すなんて考えるな。
「……はあ」
盛大に吐かれた溜め息は夜風に流され何処へやら消え去った。その瞬間、和音から溢れんばかりに放出されていた殺気がフッと息を潜め安心する。
「わかり、ました。すみませんでした」
「……ああ」
「だから腕離し、」
「悪い」
「え」
更に力を込める。理由など皆無に等しい。ただ単純に、今こうして居たいのである。
「左之さん?」
「喋んな」
「……」
良かった。和音が誰も消さずに済んで。
安心して息を吐くと彼女は困ったように頬を掻いた。背後から腕を回された状態で頭だけこちらを向く。
「……これから先誰一人殺さず、なんて無理ですよ」
「わかってる。だから極力控えろ」
「無茶苦茶言いますね」
「お前が殺さなきゃならない分は俺が引き受ける」
「本末転倒ですね。馬鹿ですか貴方は」
本末転倒なものか。
何も間違っちゃいねえ。
クツクツ喉の鳴るのが聞こえた。和音だ。声を殺して笑っている。何故だ。面白いことを言った記憶は無い。
「左之さん」
「何だ?」
「良い加減離してくれないと、永倉さんが今晩眠れなくなってしまいます」
「は!?」
辺りを見渡す。永倉が目に穴でも空けるのかと呆れる程度の勢いでこちらを凝視していた。
そうだった。
自分達以外でこの場には誰も居ないと錯覚していたが、良く良く考えてみればさっきまでここは戦場だったのである。
「さ、左之!お前らまさか……!」
「馬鹿違う!」
「ああ、勘違いするな永倉。左之がこういう奴なのは知ってるだろ?」
「ま……まあ、言われてみれば……」
おいおい俺ってどんな認識なんだ。
いろんな感情がぐちゃぐちゃになって、突っ込む余裕など無い。取り敢えず落ち着こうと額をひっ叩いてみる。効果は中々に良好だった。
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