月花物語
□序章
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遠いものほど小さく見える。これは誰もが周知の事実だ。つまりその対象が等身よりも小さく見えれば見えるほど遠くにあるということになる。
なら――あの月は一体、どれほど遠くにあるのか。月の大きさなんて原田は知らない。知らないが、知らないからこそ、不安になる。
もし、
もしあの月が、計り知れないほどにバカデカいものなのだとしたら。
一生掛かったって、二生三生重ねたって、手は届かないんじゃないだろうか。そう考えると、不安だ。
「……で」
斎藤は眉を吊り上げて口を開く。
「仮に月に手が届いたとして、あんたは一体何がしたいのだ」
「……いや、」
まあ、特に何もない、な。
ああ、何もない。が、何だこの胸騒ぎは。
「……嫌な予感がしてな」
「俺は何も感じぬが」
「ま、ただの予感だからよ。大して気にすることでもねえさ」
「……ならば任務に集中しろ。余計なことに気をとられて成すべきことが疎かになっているのでは話にならない」
「そうだな」
斎藤の言う通り、今は任務が何事よりも最優先事項だ。原田は斎藤と共に既に寝静まりかえった京の町を歩く。静かだ。
月は煌々と輝き、その光が足元を照らし、自分の道を示す。その先に何があるのか。
わかるはず、ないだろう。
やはり嫌な予感しかしなかった。
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