月花物語
□四、空虚
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原田が和音を気にかける理由はいろいろあるが、
まあ一番手っ取り早いものを上げると、それは「命令」だからである。
和音の部屋が前川邸に近いところにあるので、つまりは監視しているのである。
あの化け物たちが彼女の目につかないように、間違っても出会ったりなどしないようにと、和音とまだ仲が良い方だと言える原田が監視しに行っているのである。
別に特別仲が良いつもりもなかったが、どうやら原田の面倒見の良い性格が独り歩きして和音の様子を見ていたところをたまたま土方が見ていて、仲が良いと解釈されたらしい。
まあ今は随分と親しくなれたので良いだろう。
「どうだった、原田」
「いつも通りだったぜ。大丈夫そうだ。ところで土方さん」
「なんだ」
「なんであいつの部屋、わざわざ前川邸付近に決めたんだ?」
「……」
土方はしばらく正面を睨み付けて黙っていたが、やがて口を開く。
変わらず空(くう)を睨み付けたまま、口を開く。
「あいつ、怪我の治りが異常に早いって言ってたろ」
「……なるほど。ああ、確かに言ってたな」
「まあ本来なら遠ざけるべきなんだろうが、敢えて近くに置いた。もし狂っちまったときの叫び声も、あの辺りなら上手く誤魔化せるだろ」
「……土方さん、あいつが羅刹だって言いてえのか?」
「いや、それはねえ。新選組の最高機密が外に漏れてるとは思ってねえ。ただ、注意は必要だな」
「…………なんか、嘘ついてるみてぇてで後ろめたいな」
「なに言ってやがる。あの連中のことが表に出る方がよっぽど一大事じゃねえか」
土方は視線を正面から原田に移した。鬼に睨まれては最早これ以上何も言えず、引っ込む。
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「ほ、本命は、いけだや……」
千鶴が伝令に走ってきたのはそのあとである。
それから原田と斎藤が池田屋へ向かい、土方と千鶴が大通りへ向かうのを―――
近くの建物の屋根の上から、和音は見ていた。