月花物語

□六、正体
3ページ/3ページ



「……」
「ま、これが私の正体だな。つまりは化け物だ」
「……羅刹か」
「違う。血に狂ったりはしない。生まれつきだ」
「生まれつき?」
「ああ。私の父は西洋の出身でな、化け物だったがために人々から相当嫌われていたらしい。で、日本に逃げてきて、自分の正体を隠して所帯を持ち、その人間の女が身ごもった。ま、それが私だ。母は化け物を産んだ衝撃ですぐ死んだ」
「……」
「父は置き手紙を残してどっかいったよ。捨てられた私は、母と面識のあった人に引き取られた。で、そのまま私は大きくなって家を出て、今の状態になるわけだ」
「……お前の生い立ちはわかった。だがそれは」
「わかってる話すからそう急くな。羅刹について、だろ」
「……ああ」





和音が何故自分の身を斬ったのか、その理由がわかった。
この信じがたい、突拍子のない話を信じさせるためだ。





「私が怪(あやかし)と戦っているところを、幕府の馬鹿な研究者に見られた。私はそいつに勧誘されて、羅刹の研究の実験体になった。日本で最初の変若水な、あれ、私の血なんだ」
「……その話、嘘じゃあねえだろうな」
「ああ。なんなら幕府に問いかけてみたらどうだ?」
「いや、いい」
「話が早くて助かる。あ、そういえば、日本にも私に似た種の生き物がいるらしいって聞いたぞ。何(いず)れは私が狩る予定だが、一応頭に入れておけ」
「お前と同種じゃねえのか?」
「まさか。吸血衝動はないが、私の家計は代々人の血を吸って生きてきたんだ。私は生まれてこの方飲んだことはないけどな。血よりも白飯の方が百倍美味しい」
「そいつらは人の血を吸わねえのか」
「ああ。普通に味噌汁や大根漬けを食って暮らしてる。西洋に比べたら日本の化け物なんて皆大人しいよ」
「……そうか。わかった」





聞きたいことはまだまだある。
だが、和音の様子が段々投げやりになってきたので、これ以上の質問は止めておいた。





誰が、自分が化け物だということを嬉々として語るものか。





そう目で訴えられたので、その日はお開きになった。







































その晩、和音がいなくなるとは、誰も思わなかった。





.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ