月花物語

□八、ただいま
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「帰ってきた途端にすごい勢いだったな、和音」
「……うん」



原田は広間を立ち去った和音を追って彼女の部屋の障子を開く。

もしかしたら、と思っての行動だったが、どうやら勘という矢は綺麗に的に刺さったらしい。



「……原田」
「なんだ?」
「…………ここに、居て……」









泣いていた。








部屋の隅にうずくまって。














「居て……」
「……ああ」




意外と泣き虫らしい。
意外と、寂しがり屋らしい。











―――やっぱ、こいつもちゃんと『女の子』なんだな。








ここに居て、なんて。


和音にとっては柄にもなく、原田にとっては可愛いげがあって意外な言葉。





「居るだけで良いか?」
「…………」








良くないみたいだ。

何かしてほしいと、無言で訴えられている。
俯いていて表情は見えないが、今まで何人も女を見てきた原田にはそれがわかった。












和音は何も言わない。

だから原田も、何も言わずに隣に座った。

それから、頭を軽く撫でてやる。












「……ありがと」
「大したことじゃねえさ、これくらい」
「……はは、不思議だ。お前みたいな女タラシに言われると納得してしまう」
「そうか。ま、今は何言われても怒る気にはなれねえな」
「原田って、怒るのか?」
「泣きながら何言ってんだよ」
「……」








前々から思っていた。
こいつは、和音は、何かが合わないと。

人を見下す態度や男勝りな口調と言動、その全てが、パッとしない。

和音にはもっと、別の人格があると。




「……お前、強いな」
「……何が?」
「こんな目ぇ腫らして泣きながら虚勢張れるなんざ、普通じゃ中々できねえぜ」
「……悪かったな」
「褒めてんだよ。大抵の女は、辛いことがあったときに隣に男が居たらすがりつくだろ?」
「……」
「ま、それはそれで愛嬌ってもんだが、その点お前は強い。他の女よりな」
「……」
「……和音?」
「……そういうこと、あんまり言うな変態」
「はは、そりゃ失礼した」






照れ隠しだ。
それがわかったから軽く流す。

和音の場合、この素直じゃないのが愛嬌になるんだな。なんて暢気なことを考えながら再び頭を撫でる。




和音は俯いて、赤く火照った顔を隠した。











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