CLOCK ZERO
□狂気という欲望
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「・・・ト、ラ?」
「よぉ、お嬢。
やっぱあんたと同じ世界にはいられねぇ。
だが、あんたに害をなすと考えられる人間の事はもう心配しなくていいぜ」
そう言って不敵に笑うあの世界のトラ。
何を心配するなというのか。
だって、
トラの手には、髪には、顔には、服には。
おびただしい量の血が付着している。
誰の血なんて考えたくない。
「好きだったよ」
「やめて!!!」
何故、過去形なの?
あの世界で、あんなにも好き合って思いが通じたはずなのに
何 を 間 違 え た の ?
「何だよ、お嬢。まだ安心してねぇのか?
まだ殺ってほしい相手でもいたのかよ」
「違う、違うわ!
どうして!!?こんな・・鷹斗は!?理一郎・・終夜は!?」
聞きたくない、知りたくない
頭の中ではわかっている
トラが、殺してしまったということ。
「違う、こんなの違うわ・・」
「ちがわねーよ。俺が守ったのはあんただ
あんたがこの世界で生き抜きためには、こうするしかなかったんだ」
「・・うそ・・」
「やつ等をあんたが守りたかったように、
俺はお嬢を守った。
それだけだよ」
(それだけ??)
自分の命に、何人もの人の命が犠牲になることは決してない
あってはいけないのだ
「じゃあな、お嬢
この世界でも元気でな」
「待ってトラ!!!!行かないで!!!」
手が届かない。
足は動いているはずなのに、トラに近づけない
「トラぁ!!!!!」
涙で視界がぼやける。
あの世界で愛した人の、姿が見えない。
私が聞いた最後のトラの言葉。
「この世界のトラを愛してくれよ」
振り返らず、彼は右手だけを振っていた。
彼の狂気は、愛という名の。
彼の狂気は、欲望という名のものだった。
二度とトラに会うことなどない。
「好きなのよっ・・トラぁ!!!」
二度と、私の声は彼に届かなかった。
end