CLOCK ZERO

□弱い私なら愛してくれた?
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「僕はもう行きます」

「・・えぇ、その方が良いわね」


彼――ビショップにとって自分の命よりも大切なものを守るために。

この鳥籠から逃げるのだ。


「早く行ったほうがいいわ、鷹斗に見つかってしまったら大変だものね」

必死に私は強がる。泣いてはいけない。
最初からわかっていたのだ。

彼にとって大切なものは家族である兄。

決して、私であるはずがない
この気持ちは隠さなければいけない。

私を守るせいで、彼と大切な兄である央が出会わないということがあってはいけないのだ。


「あなたは、強いですね」


「え?」


「もし、あなたが行かないでほしいって言ったのなら僕は行くのを躊躇いました。」


「・・・・・」


「あなたは僕よりも強い。

これだけは信じてください
あなたは元の世界に戻れます。

例え今は無理でも、きっと元の世界に戻れる日が・・」


「行って、円」

涙があふれそうになるのをすんでのところで抑える。
これ以上この人の話を聞いてはいけない。


「早く行って円。後のことは私に任せて」

「・・わかりました

それでは、さよならです」



そういって部屋を出て行ってしまった円。

私はさよならさえ言うことが出来なかった。
抑えていた涙があふれてとまらない

落ちた涙は床に水溜りを作った





(馬鹿)

あなたがいない世界に戻ったとして、私は何が出来るのか。


あなたの愛を無くした私は、どう生きれば良いのか。


円はもとの世界に戻れるといった。
だが、戻れるのはこの国の王が玉座したらの話だ。


(残酷ね)


さいごの決断は私にしろというのだ。

人が死ぬのを待ち、この世界を去るか。
誰も傷つけず、この世界で生きるか。




私に強いと言ったあなたを、私は未だけ憎む。

ねぇ、弱い私なら連れて行ってくれたの?
   弱い私なら愛してくれたの?
   


聞いてほしい相手はもういない



「さよなら、円」


呟いた言葉は無機質な部屋で響いただけだった



end

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