CLOCK ZERO
□このままで
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「・・っくしゅん」
どういうわけかこの世界には雪が降っている。
自然がほとんど滅亡してしまったはずなのに、自分がここにいた時だって一度も雨など見たことはないはずなのに。
「どういう事なのよ・・」
撫子は降り積もる雪に感動を抑えきれず、部屋からそのまま飛び出してきた。
という事は、上着など着ているわけもなく
「それにしても綺麗ね」
『あちら』の世界でも雪はもちろん見たことはある。
だが、都会の雪は積もらないのだ。積もっても2cm、そのくせすぐに融けてしまう。
そのときに初めて雪を儚いと思った。
何て淡いものだろうと、思った。
降り積もる雪を、冷たい廃墟の壁に寄りかかりながら見つめる。
背中の冷たさよりも、むしろ顔に雪がかかりそれが融けて首に流れ落ちる冷たさの方が感じられた。
だが、冷たさだけではない。
廃墟の無機質な冷たさなどではなく、どこか温かみのある冷たさだ。
「何してるんですかあなた、こんな所で。キングに見つかったらどーするんですか。
てか、風邪でもひかれたら僕が怒られるんですけど。」
「円・・」
振り向かなくてもわかる。
若干の焦りの感情が言葉に出ているのは気のせいだろうか。ゆっくりと振り向くと、私の顔を見てあからさまにホッとした顔をした。
「雪が見たいなら、部屋で見ればいいじゃないですか。何でわざわざ寒いところで見ようとするんですか理解できません。」
「いいじゃない、近くで見たかったのよ」
まつげに付いた雪を取ろうと手を伸ばすと、円の手がそれを掴みフッと息を吐く。
ついた雪の行方はわからなかった。