CLOCK ZERO

□このままで
2ページ/2ページ


「・・ビックリした」

「僕はあなたの手の冷たさに驚きましたけどね。何時間いたんですか、全く」

ブツブツと文句をたれる円を見て、どうしても可笑しくなってしまう。

円を変と思って笑ったのではない。
円を確かに愛しいと思ったのだ。


「っくしゅん」

静寂の中、その場に不釣合いな撫子のくしゃみが飛ぶ。撫子自身、正直やってしまったと思ったほどだ。


「・・寒いんですか?」

「・・・・全然?これっぽっちも寒くな、っくしゅん」

あぁ、今日はもう駄目みたいだ。
すでに弁解する言い訳も取られてしまったような気がした。
そんな撫子の気持ちに気づいたのか、円は特有の糸目をさらに嬉しそうに細めた。

おもむろに円は白いもふもふを広げる。
円もとうとうこのような道へ走ってしまったかと若干焦った撫子を無視し、かまわずに撫子に近づいた。

「ほら、入ったらいいでしょ。僕の上着の中に」

「は!?」

「だから、入ったらいいでしょ。
実際僕の上着よりも体温の方が暖かいので」


(馬鹿にされてるわ・・)

だがここで素直になり、風邪をひかないに越したことはない。

羞恥に耐え、恐る恐る近づくといきなり抱きしめられた。

「ちょ、円!?」
「・・暖かいでしょう?」
「〜っ!!!」

耳元でささやかれるとどうしても落ち着かない
。耳が熱くて、そこから発火しそうになる。

あまりの事に声も出せずにいると、円は抱きしめる腕をほんの少しだけ強めた。


そして撫子が好きな言葉を囁くのだ。


「好きですよ、あなたのこと」



end
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ