薄桜鬼

□守るべきもの3
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松本先生が夕刻、私の部屋に訪れた。
久しぶりに松本先生に会うが、やはり優しそうな顔だ。

父様を思い出す




私を見て、松本先生は目を大きく開いた。
「!!千鶴くんか?」

「はい、お久しぶりです先生」

「なんと・・ちゃんとご飯は食べているのか」

「いいえ、最近食欲がなくて・・
食べ物を見たり、食べたりするとすぐに吐いてしまうんです。」


「・・・」


松本先生が黙る。

「あの、病気じゃないんです
自分でもわかります。身体のどこかが悪かったり、そんな事はないんです」


そうだ、病気ではない。

「・・精神的な重荷から・・と言う事か」

「っ」


気づかない振りをしていた。
鈍感な振りをしていた。

それでも、自分の身体は自分が一番知ってるわけで。


「ここを離れなさい。」

「え?」

「ここを離れて、江戸に戻るんだ。
ここにいたら、君は死んでしまう」


思わず口が開かなくなってしまう。
何も言えずに黙っていると、松本先生が立ち上がって部屋を出ようとしていた。



「近藤さんや土方さんには、私から話をつける。君は、ここにいるべきじゃない」



「ま、待ってください!!!!!!」

出て行こうとした松本先生をとめる

「私、ここでしか生きられないんです!」

喉が切れそうになるほど、叫ぶ。



「君はここでしか生きられないんじゃない!!!ここで死ぬことしかを考えていないだけだ!」


グサリと何かが胸に突き刺さる。

「とにかく、ここを出る準備をするんだ。
またくる。その時は必ず江戸に戻るぞ」



そういって出て行ってしまった松本先生を、
私は追いかけることは出来なかった。


「父様っ!」





静かに頬を伝って落ちた涙が、畳へ落ちる。

落ちた涙は原形をとどめず、畳に吸い込まれる。

吸い込まれた涙は、もう元には戻らなかった
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