君の音 ブック

□00.みどり色の髪の少年
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聞こえない。聞こえない。
世界の半分が色褪せた。


片方の耳にしか音が届かない。そこには絶望しか存在しなくて。

私は、自分の世界へと閉じこもった。










フワリ、と桜の花びらが舞う。
柔らかい風も吹いて私の病室のカーテンを揺らす。

(嗚呼、今日も聞こえない。)

そして、聞こえない右耳を抑えてうつむいた。



―――――――突発性難聴。



それが、私の背負わされた病気だった。

死に至る病気ではない。
でも、それでも。音が聞こえなくなることは私にとって恐怖でしかなかった。

右耳は完全に聞こえなくなり、左耳は補聴器でどうにか音を拾える、そんな状態になった。


不安で怖くて次第に学校にいかなくなり、食べることも止め精神的に参った私を両親は入院させた。




両親に迷惑をかけ、私は何をしているんだろう。




無機質な真っ白い天井を眺めて思う。
自分は色褪せた世界でなぜ生き続けているのか。

大好きだった歌も歌えなくなった。

綺麗だと友達が褒めてくれた声も数年前からいとことも発していない。
音が聞こえないから音量の調節ができないのだ。




ガラッ





不意に私の部屋の病室の扉が開いた。
入ってきたのは50代前半くらいの男性。

この部屋には私しかいない。何か用事だろうか?

じいっとその男性を見つめていれば男の人はニヤリと笑い、私の腕をつかんで私を押し倒した。





もしかして、この人私が声を出せないのを知っている!?






いやだ、いやだ、いやだ、気持ち悪い。
そんな手つきで私に触れないで。

やだ、怖い。振り払えない。どうすればいいの。

じわっと涙が溢れてくる。





『……っっ』

「泣いちゃった?かわいいね」




誰か、助けて。ぐっと、私の喉に力が入る。
男が私の喉に手をかけたのだ。

やだやだ、触らないで。そんな風に触られたら、もう二度と歌えなくなる。





『……っ、や…、助けて!!やだやだ誰か!!!!』

「!?こいつしゃべった!?」





数年ぶりに発したその声は痛々しいものだったと思う。

それでも、声は、失いたくなかった。



すると、私の叫びを聞いたのか一人のみどり色の少年が部屋に入ってきて私の上にまたがるおじさんを殴った。




「失せろ」




その低く、不機嫌そうな声におじさんは怯えたような声をだし病室から出ていった。





「大丈夫か?」





その問いに私は震えながらこくこくと頷く。
すると、そのみどり色の少年はほっとした顔をした。




「誰か、看護婦を呼んでくるのだよ」

『……っ』




ぎゅ、と私はそのみどり色の人の服の裾をもった。

今、一人にされたら。
また、あんな人が入ってきたら。

そう思うと怖くてがたがた震える私を見に見かねたのだろう。




「………大丈夫なのだよ。」




ぎゅうっと、彼は私を抱きしめてくれた。
暖かくて、彼からは優しい香りがして涙はすぐに収まった。

震えもだんだんと収まり、5分後くらいには私の震えは止まっていた。




「だいじょ…?……れ、…た?」




右耳の当たりで何かをつぶやく彼。うまく聞き取れない。
首をかしげれば、左耳の補聴器に彼は気づいたのだろう。

そっと左耳の補聴器に彼は囁いてくれた。




「大丈夫か?何もされなかったか?」




その優しい声にこくりと肯けば彼は「よかった」とつぶやいた。

そして「これ」と私の手のひらに綺麗に光るブルーの指輪を私の手のひらに置いた。





「看護師を呼んでくるのだよ。不安ならそれを握っておけ」





不思議と、不安はもう消えていた。

首を縦に動かせばぽん、と頭を数回撫でて彼は病室から出ていったのだった。











これが、私と彼の出会いだった。









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