ねぇねぇ、アズマネくん。
□02.エースという肩書き
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アズマネくんと一緒に帰ったあの日から、私はなにやら視線をよく感じるようになった。
特別聡いわけではないので、誰かとまではわからない。
アズマネくんじゃないことは確かだけど。あの人鈍そうだし。
このままだとらちが明かないな、と思いながら私は人気のないところへと向かう。
人気のないところに私がいけば、私に何かを聞きたいのか話したいのかわからないけどストーカーくんは出て気安いだろう。
「桃山さん!」
この声は。今一番あいたくない人の声だ。
私は早足で歩くが、彼は後ろから追いかけてくる。
「無視!?俺だよ、アズマネだよ!?」
誰のせいでストーカー被害に遭ってると思ってんだコイツ。面白いからいいけどさ。
しょうがないなぁ、と心の中で思い私は笑顔で振り返った。
『おはよう、アズマネくん。』
「おはよう…朝から逃げられるとさすがの俺でも凹むよ…」
『凹むのなんていつもでしょう』
「相変わらずひどいね……」
最近話していてわかったのだがアズマネくんはMだと思う。
私がいくら毒舌を吐いても笑ってる。案外図太いのかもしれないと思っていたのだがただのMであるという結論に達した。
そのほうが数倍面白いし。
『何か用事?』
「あのさ…最近よく視線感じることとかない?」
『あるけど』
「やっぱり!!??」
なんだ。やっぱりアズマネくん関係だったか。
「あんまり気にしないで」
『私繊細なんで無理です』
「えっ、繊細!?」
『女子に対してその態度はいかがなものかと』
「ご、ごめん……」
繊細というのは嘘だけど、さすがに四六時中視線を感じるのはさすがに疲れる。
観察するのは好きだけどされるのは好きじゃない。
『私何かしましたか?』
「いや…俺の後輩がさ…」
『後輩?部活してるんですか?』
「うん。一応バレー部」
『………バレー……』
「うん。好き?」
『嫌いです。』
「そっか…残念……」
『残念がってないで早くその後輩なんとかしてください』
「う、うん。その後輩ちょっと熱くってさ…」
ああ。アズマネくんそういうタイプにすかれそうだもんね。とは言わないでおいた。
それにアズマネくんがバレー部なんて誤算だった。
まぁ、私の過去もなにもしらなさそうだからいいか。
『私に何かできるならお手伝いしますし』
「ほんと!?じゃあ……放課後、体育館に来てくれない?」
『体育館?』
「うん。それでたぶん後輩もあきらめると思うんだ」
『…?わかりました。放課後ですね。』
めんどくさいけど、しょうがない。
部活が始まるまでにすべてを終わらせてしまえば問題ない。
ふと周りを見てみると、もう視線を感じることはなくなっていた。
*
放課後。
私は約束どおり体育館へと足を運んだ。
急遽委員会が入ったので、少々遅れてしまったがアズマネくんに連絡は入れておいたので問題はないだろう。
しかし、もうひとつ問題ができてしまった。
このままだと確実にバレーというものを見なくてはならない。体育館に入らずにどうにかアズマネくんを呼べないものだろうか。
「あのっ!」
悶々としていると、後ろから声がかかった。
『はい?』
振り向いてみると、そこには小柄な頭ツンツンの少年がいた。オレンジ色のユニフォーム。まさか、リベロ!
ということはバレー部!
「俺が、あなたをストーカーしていた西谷です」
『え!』
ということは、アズマネくんの言っていた熱い後輩か。
「旭さんのことを怖がらずに対抗できる人をちょっと観察したかったんです。」
『そんなたいした者じゃないけれど、私』
「旭さん、あなたと話すと楽しそうです」
『そう』
「なんで、旭さんのことよろしく頼みます!」
なんか勘違いしてるっぽいなぁ。
キラキラ輝く目はどうやら私とアズマネくんができてると信じて疑っていないらしい。
青春だなぁ。
『アズマネくんとは友達だよ?』
にこりと笑うと小さな後輩くんはしょぼんとしてしまった。
アズマネくんに劣らず表情がコロコロ変わって面白い。
『それに、アズマネくんが、君のこと頼りになるって言ってたよ?』
「!!!!!!!!!」
『自慢の後輩だって』
「!!!!!!!!!!!!」
『私にはアズマネくんは君のことを信頼してるように見えるけど?』
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
どうしよう、この子の反応おもしろい。
うれしそうににやにやしてる。ふふ、かわいいな。
この子はたぶん、アズマネくんがとられたような気がしてたんだろうな。
アズマネくんもてるなぁ。さすがキングオブヤンキー。
『じゃ、部活に戻りなよ。ね?』
「っ、はい!ありがとうございます!」
私も帰ろうかな、と思った瞬間、
「旭さんのアタック見ていってください!」
ぐい、と後輩君に手を引かれた。
私バレーは見ないといい終わる前に体育館へと引きずり込まれた。
これが熱い後輩くんか。やられた。
「ほら!みてください!」
顔を上げるとそこには、きれいなフォームでボールを打つアズマネくんの姿があった。
「旭さんはエースなんすよ!」
ああ、引きずり込まれる。
力強いスパイク。華麗なジャンプ。楽しそうな表情。
私にも、あんな時期があった。
楽しくて楽しくて。バレーが大好きで。
エースという肩書きに誇りを持っていたあのころの自分はもういない。
苦しい。
見たくない。
バレーなんて大嫌いだ。
そう思うのとは裏腹に、私はアズマネ君から目が離せないでいた。
エースという肩書き