Above the Clouds vol.2

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1時限目が終わると、ナギとルイが捜索に行こうと席を立ち上がる前に、一気にクラスの女子たちが2人の席にやってきた。
「ねぇねぇ!ルイくんって呼んでも良い?!」
来るや否や、突然そんなことを聞く女子に、ルイは嫌な顔1つせずに微笑んだ。
「ええ、良いですよ」
「えー!じゃああたしも、ルイくんって呼んで良い?!」
「私もぉ!」
「ええ、良いですよ」
普段の3倍は煩くなった教室内で、男子たちはそんな女子たちの姿をジト目で見ていた。
「ねぇねぇ、ルイくんって何でそんなに日本語が上手なの?バイリンガルってやつでしょ?」
「・・親戚のナギが、教えて下さったんです」
―いや・・俺、何も教えてねぇけどな―
相手は女子故に、ナギは珍しく大人しくしていた。
「あーそっかぁ!川島くんはルイくんの遠い親戚って言ってたもんね!」
―は・・。俺のことはナギくんじゃねぇとか、既に格差がついてんのかよ。ルイも質問攻めでタジタジになってるじゃあねぇか―
ナギがジト目でそんなことを思っていると、突然1人の女子から声を掛けられた。
「あの・・川島くん」
「あ?俺のこと呼んだ?」
まさか、ルイと同じ土俵で自分に興味を示してくれる人が居たことに、ナギは驚きを隠せない。
「うん。あの、川島くんって、付き合ってる人とか居るのかなぁって・・」
恥ずかしそうに尋ねる女子に、周囲の女子が目を丸くする。
「えーっ?!もう、それを聞いちゃうのぉ?!」
「ミキ、頭が高い人が好きだもんねー!」
―頭が高いってよぉ・・。そんなん初めて言われたぜ―
ナギはジト目になりながら、そう思った。
「・・付き合ってる奴なら居るぜ!」
それを聞いて、女子たちは"えぇーっ!"と声を荒げる。だが誰よりもショックを受けたのは、紛れもなくルイだった。
―・・ナギ・・彼女が居たのですね・・。・・あれ?胸が痛い・・吐き気がする・・目頭が熱い・・。何故こんなに悲しい気持ちになるのでしょう。
僕が、聞かされていなかったから・・?それとも、昨日"好き"と言って下さったことが嘘だったから、裏切られた気分になっているのでしょうか・・?―
ルイが胸を押さえ俯いて苦痛の表情をしていると、ナギはそんな彼を自分の腕に寄せた。
「え・・」
「悪いな。俺、コイツと付き合ってるから」
「「えええええええ!!」」
周囲の女子たちと一緒に、ルイも驚いてそう言ってしまった。
「だ・・だって、親戚・・なんでしょ?てか、それ以前に男同士って・・」
「で・・でも、何か分かるよ。ルイくん可愛くて綺麗だし・・」
「リアルBL!腐腐っ・・」
動揺し始めた女子たちに、ナギは一応釘を刺しておく。
「言っておくが、ルイが偶然男だっただけで、元から男が好きなわけじゃねぇぞ!俺ら、基本は女が好きだからよ」
「あ・・そう・・だよね・・」
「良かったね、ミキ。もしかすると、ワンチャンあるかもよ?!」
「そうかなぁ・・」
「そ・・そうだよ、ルイくん狙いの私にもワンチャンが・・」
「なんかそれじゃあ、2人が別れて欲しいみたいじゃない」
「好きになったのが偶然男とか!BLあるある。腐腐っ・・」
女子たちが口々に言っている中、ルイが慌てて口を挟んだ。
「でも僕には、こんや・・んぐっ」
ルイが話している間にナギが女子たちに気付かれないよう、魔法でルイの口を封じる。よって、見た目は押さえつけられていないのに、
ルイは"見えない何か"に口を塞がれている感覚になった。
「まぁ、そういうわけだからさ。悪いが俺らが仲良くしてる間は温かく見守ってて欲しいんだよなぁ」
そう言いながらナギは手を机の下に入れ、掌で透明の魔方陣を作ると、女子たちの周りを囲んだ。
「そ・・そうだよね!好きな人には幸せになって貰いたいよね!」
「うんうん!あたしたち、自分のことしか考えてなかったよぉ」
「ほら、2人の邪魔しちゃあ悪いから、私たちは席に戻ろ!」
「うん、そうだねー」
「うんうん!ナギルイを生暖かく見守るわ!腐腐っ!」
そう言いながら、女子たちは勝手に納得して自分の席に戻っていった。だが1人の女子が興味深そうに2人を見つめている。
―な・・!人間に、俺の魔法が効いてないだと?!まさかこいつ、人間じゃあねぇのか?!―
予想外のことに、ナギは目を見開き、驚きを隠せない。だが、この女子も先ほどの女子たちと同様に、明らかに普通の人間だ。
女子はニヤニヤしながら、突然テンションを上げた。
「腐腐っ!何だか知らないけど、邪魔者たちが自動的に排除出来たなんて、ラッキーチャンス到来って感じね!あの子達が居たら、
私が貴方たちとお喋りできないもの!」
「あ?何だよ、お前」
ナギ本人は、人間じゃなければ何者だ?という意味で質問をしたのだが、女子は自分の名前を聞かれたのかと思って名乗り出た。
「私は、木間 理緒よ。ところで川島くんたちって、何処まで行ってるの?!腐腐っ!」
やはり、今時の人間の言っていることは分からないことだらけだ。ナギは間の抜けた声をあげた。
「は?何処までって、何の話だよ?」
「えー!女子に、それを言わせるのぉ?!何処までって言ったら、セッ○スはしたの?ってことに決まってるじゃない!腐腐!」
「おおおおおおい!!!」
「んんんんん!!!」
ナギはまだ魔法が解除されていないルイに気付き、ドサクサに紛れて魔法を解除した。理緒からとんでもない質問をされ、2人して一気に赤面した。
「腐腐腐腐!2人して顔、真っ赤にしちゃって、か〜わ〜い〜い〜!」
「は?!ルイはともかく、俺に可愛いはねぇだろ!」
―ったく、本当に今時の人間は分からん!―
ナギは呆れながらそう思っていると、理緒が急かす。
「だから、何処まで行ったか聞いてるんだけどぉ?!」
「・・何処までも行ってねぇよ」
「え?!ってことは、もしやキスも、まだ的な?!」
「してねぇよ。ハグだけだ」
「ハグ、キタァァァッッ!!!!」
恐ろしくテンションが上がった理緒に、ナギとルイは天界にすら居ないタイプに驚愕していた。ルイはずっと口をポカンと開けているだけだ。
「ルイくんの感触は、どんな感じィィッッ?!」
「・・なぁ。お前、色々と大丈夫か?」
ナギは完全に引いてしまい、取り敢えず理緒の精神状態を心配した。
「質問に答えろォォッッ!!」
「・・感触は、暖かくて柔らかくて安心する・・って、何てことを言わすんだ!」
普通に答えてしまった後に我に返ると、ナギは赤面させてそう怒鳴り散らした。素直なナギの感想に、ルイは一気に赤面したが心の奥底では嬉しく感じた。
「腐腐!良いね、良いね!じゃあさ、じゃあさ、キスの予定はァァッッ?!いつすんの?!今日?!明日?!」
「何で、それをお前に教えなきゃ・・」
「質問に答えろォォッッ!!」
「・・あのよ、俺はこう見えて好きな子には紳士だから、相手が望まない限り、キスだのセッ○スだのはシたくねぇんだよ。俺が性欲に負けて、
無理やりそんなんシたって、俺は良くても相手を悲しませちゃあ意味がねぇしな」
―ナギ・・―
昨日も言ってくれた言葉に、ルイはときめいてしまった。心臓の鼓動が高鳴り始める。
「腐腐っ!ルイくん、さっきからずっと赤面しちゃってるし!本当に可愛いッ!」
「おい、ルイに手を出したら許さねぇぞ」
彼女を睨みつけ、低い声でそう言って威嚇する。かなりしつこい理緒に、ナギは大分頭にきているようだった。
「腐腐っ!仮に女から男を奪う可能性はあっても、男から男を奪うことは断じてないから安心して!」
「・・・・」
ケラケラ笑う理緒の言葉に、女の世界はいつの時代も恐ろしいと、ナギは思った。
「で?ルイくんは、川島くんにキスして欲しいとか思う?!」
「ええ?!」
突然自分に振られ、ルイはトマト並みに赤面した。そんなルイの反応に、理緒はニヤニヤが止まらない。
「ぼ・・僕は・・その・・」
ルイは困った表情を浮かべ、視線を斜め下に向ける。ナギはあまり期待は出来ないが、53年間ずっと一筋で好きな人だ。
ルイの回答は非常に気になるところだが、そこは心を鬼にして阻止をした。
「・・ルイに、無茶振りをするんじゃあねぇぜ。困ってんだろ」
「んー。分かった。ごめんね、ルイくん。答えなくて良いから!」
「・・ごめんなさい」
ルイは心から反省をし、頭を深々と下げて謝った。
「そんな謝り方されて、責める人は居ないよぉ!気にしないで!」
―お父様は、容赦なく"攻め"ましたけれど・・―
ルイは内心で、そうツッコミを入れた。ジェームズは、少しでも自分が気に食わないことがあったり、ルイが彼に気に食わない些細な行動を起こしても、
ジェームズはルイがどんなに謝っても容赦なく責めながら犯すことは日常茶飯事であった。
「よし!じゃあ纏めると、受けの了承を得るまで、襲わない攻め!良いCPね!これで、次回の”コミケ”に出す、BL同人はスムーズに行きそう!
2人とも、ありがとねぇ!末永く爆発して!腐腐っ!」
理緒は勝手に納得して、満足そうに自分の席に戻ると、突然何かに取り付かれたように書き物を始めた。
「・・最近は、すげぇのがいるな・・。俺の時代は、あんな奴いなかったぞ」
圧倒されすぎて、精神的にクタクタになったナギに、流石のルイも同意せざる得ない。
「凄かったですね・・。しかし、彼女の言っていたことに幾つも分からない言葉がありました。僕は日本語を結構勉強してきたつもりだったのですが、
まだまだ勉強不足でしたね」
ルイは自分の未熟さに肩を落とす。だが、ナギは静かに首を横に振った。
「・・いや、俺らは知っちゃいけないような気がする・・」
「・・受け、攻め、CP、コミケ、BL同人、末永く爆発・・。本当は今すぐにでも調べたいのですが、駄目ですか?」
少しでも疑問があると、すぐ調べる癖があるルイは、少しうずうずしている。
「俺の直感だが、知ったら後悔しそうだ。知らぬが仏って言葉があるだろ?」
「ええ・・ありますけれども・・。そうですね、ナギがそこまで言うなら、それらの言葉を調べるのを保留にしましょう」
ルイがそう言うと、2時限目開始のチャイムが鳴った。
「・・次の休み時間に、校内を捜索するか」
ナギが低い声でそう言うと、ルイは"そうですね"と言って頷いた。
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