Above the Clouds vol.2

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ナギはフィールドを元に戻した後、ナギとルイは何事もなかったかのように授業を受けた。
ルイの精神状態を安定させるため、1年4組へ行くのは5時限目終了後の休み時間を選んだ。
目的のクラスに着くと、ルイは教室から出ようとしていた女子生徒に声を掛けた。
「お急ぎの中、申し訳御座いません。このクラスに、松岡 夏樹さんという方はいらっしゃいますか?」
ルイに声を掛けられた女子生徒は一気に赤面させ、数秒彼に見惚れてしまった後、我に返ると素早く何度も頷いた。
「い、居ますぅぅっっ!ま・・松岡くーん!・・えっと・・先輩が・・呼んでるよぉ・・!」
女子生徒は、2人のネクタイの色で、学年が上だと判断したのだろう。
その後、女子はすかさずルイに質問した。
「あ・・あのぉ・・お・・お名前を・・」
「ルイ・ジェームズ・ウエストウッドと申します。お急ぎの中、要望にお応え頂き、有難う御座います」
「い・・いえ・・えっと・・あたしは・・全然・・!えっと・・じゃあ・・松岡くん来たから、あたしはこれで・・」
トマトのように赤面した女子は、挙動不審になりながら逃げるように廊下を走っていった。
「ありゃあ、王子様がうちの学校にいるなんて、はぁと。とか思ったんだろうな」
「全く、貴方は何を言っているんですか」
不機嫌そうに呟くナギに、ルイが呆れてそう言い返した。
「へぇ〜。アンタがルイ?」
松岡と呼ばれた男子は、クレアの生まれ変わりとは思えないほど、派手な青年だった。
変声期をまだ迎えてないのかと思えるほどの高い声である。
ナギが以前ヒューマン・ペディアを読んだ限り『クレアの家は当時イギリスでは有名な貴族の家柄』と記されていた。
更に、クレアの外見や話し方からも如何にもなお嬢様だったため、そんな彼女と真逆のタイプとは、
ナギは本当に夏樹がクレアの生まれ変わりで、しかも彼女の大甥であるのかと不審に感じた。
突然上から目線で声を掛けられ、ナギはその声の主を睨みつけた。ルイはそんなナギとは真逆に、彼に笑みを浮かべる。
「ええ、そうですよ。初めまして。貴方が、松岡 夏樹さんですね?」
夏樹の外見は、見るからに白人とのハーフだと思わせる肌の白さ、目はクレアと同じ碧眼で大きくツリ目、ルイより身長が若干低く、
細身で髪を金髪に染め、Yシャツを第3ボタンまで開けてシルバーのペンダントを2つ首から提げ、ピアスも耳に左右3つずつ空けている。
「嗚呼。てか夏樹で良いぜ?・・そうだ。誰か忘れちまったんだけど、この写真を渡されてさぁ」
クレアは事実上ルイに"消された"ことになっているので、人間界では存在も抹消されてしまったようだ。
夏樹は胸ポケットから、ルイが生前の頃に撮った古い小さな写真を取り出した。外見は今と全く変わっていない。それを見て、ナギとルイは目を見開いた。
―生前のルイの写真・・だと・・!すっっっげぇ欲しい・・―
ナギは直感でそう思ってしまった。夏樹はルイしか見えていないようで、彼をずっと見ながら話を続ける。
「この写真の奴がルイって言うから、会ってくれって言われてさ。写真を見て可愛いと思ったけど、生の方が可愛いなぁ。
ぶっちゃけ好みかも。俺、お前なら男でもイケるぜ?」
そう言いながら、夏樹はルイに顔を思い切り近づけたが、突然背中から重い空圧が乗っかり、彼はその場で倒れこんだ。
「ぐげっ!」
また、ナギがドサクサに紛れて魔法を使ったのだ。ルイはまた、呆れた表情を浮かべて彼を見てから、夏樹に声を掛けようとした瞬間。
「ルイ。もう良いだろ?大甥予定だった小僧に会えて良かったな」
ルイが夏樹を気にかけるのも嫌なのか、ナギがすかさず嫌味を込めてそう言った。
「ナギ・・また貴方は、そう言う言い方を・・」
「ほら、ルイ。教室に戻るぞー」
ナギはそう言って、ルイの腕を引っ張った。
「ナギ!まだ、夏樹が倒れたままですよ?!」
「奴なら大丈夫だろ。力だって殆ど使ってねぇし」
「・・ちょっと待てよ!」
夏樹がそう叫ぶと、ナギは仕方なく止まってやった。夏樹は背中を擦りながら、ゆっくりと立ち上がると、ナギを睨みつける。
「テメェ・・!ルイの何なんだよ?!」
「あ?彼氏だけど?残念だったなぁ?」
ナギは余裕の表情で夏樹を見下すと、夏樹は舌打ちを打った。ルイは"この学校ではあくまで恋人で貫き通すつもり"だと思い、黙ったままでいた。
「何だァ?小僧、俺とやろうってか?」
「ちょっと、ナギ!止めてください!」
慌ててルイがナギを止めに入るが、頭に来たままのナギは彼の言うことを聞かない。
「消すんじゃねぇんだから良いだろ。こんなモヤシみたいな小僧、ワンパンノックアウトだぜ?」
「そういう問題ではないですよ!」
ルイが必死で止め、ナギの精神を落ち着かせようとして彼の両手を掴む。
「俺のこと小僧って・・1個しか年が違わねぇ奴に言われたくねぇけど。てか俺、勝率ゼロの相手とは喧嘩しねぇ主義だから」
ナギの大柄な外見を見て既に逃げ腰の夏樹に、ナギは呆れた。
―いやいや俺、お前より、はるかに年上だから。つーか、男のくせに戦わずに逃げるってよぉ・・今時の若者は・・―
そんなナギを無視して、夏樹はルイを見つめる。
「ルイ。ダチぐらいなら良いだろ?俺、お前のこと、好きになっちまったみたいだからさぁ、これでもう会えなくなるのは嫌なんだよ」
―よく好きなんて言葉を気軽に使えんな。由宇みてぇな奴だ―
ナギはそう思いながら更に呆れた。
「ええ、良いですよ。友人になりましょうか」
あっさり承諾したルイに、ナギは目を丸くした。
「は?!ルイ!お前、自分で何言ってるか分かってんのか?!」
「ええ」
ルイはそう言って微笑むと、ナギは見惚れてしまい、返す言葉が出てこなかった。
―明日の朝には、此処の学生全員に"俺らが存在した記憶"を抹消するからって、よく気軽に言えるもんだな―
ナギがそう思っていると、夏樹は一人で喜んでいた。
「マジで?!よっしゃ!じゃあさ、今日一緒に帰んね?」
それには、流石にルイも間を置いてから申し訳なさそうな表情をした。
「申し訳御座いませんが・・今日は、急いで帰らないといけませんので・・」
「え・・そうなのか・・。じゃあ、仕方ねぇな・・」
喜怒哀楽が分かりやすい夏樹は、唇を尖らせて俯く。それを見て、ルイは眉を寄せて困った表情を浮かべてから、慰めるように声を掛けた。
「・・"明日"なら大丈夫ですので、一緒に帰りましょう」
「え?!マジ?!じゃあ、明日は絶対だからな!」
また一瞬にして明るくなった夏樹に、ルイは笑みを浮かべて頷いた途端、チャイムが鳴った。
「はいはい、じゃあ教室に戻ろうぜールイ」
「ええ、そうですね。それでは、"また"お会いしましょう、夏樹」
―何が"また"だ。この小僧が天界に逝けなきゃ、二度と会えねぇだろうが―
ナギはルイの手を引きながら、そうツッコミを入れた。
「え・・!授業サボったりしねぇの?」
どうしても、ルイと長く一緒に居たいらしい夏樹に、ナギがルイの代わりに返答した。
「は?!ルイは優等生だから、そんなことしねぇんだよ!」
そう言い払うと、ナギは立ち往生している夏樹を無視して、申し訳なさそうな表情を浮かべながら夏樹を振り返るルイの手を引いて走り出した。
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