Each life

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門田と別れ、カイトは寮に戻っていた途中だった。
寮まであと数分で着くという時に、
黒のYシャツに黒のスーツを着た黒髪の男が立っていた。
―折原…っ!―
カイトは怒りを押し殺して、取り敢えず挨拶をして早足で通り過ぎようとしたその時。
臨也の方から声をかけてきた。
「ただの部外者である君が、うちのクラスのことに首突っ込んで来て、
わざわざ学園長を通すとは、生意気だねぇ。実に生意気だ。3年A組、始音カイトくん」
名前は学園長から聞いたとして、何故顔と名前が一致したのか、カイトは驚きを隠せなかった。
「…ルームメイトが困っているんです。それを見過ごすわけには出来ません」
困ってる人ではなく、ルームメイト=レンと名指しにしたことに、臨也は鼻で笑った。
「嗚呼。君たちって、そういう仲なのか!…そんなことは、どうでも良いけど。
それはザックリ言えば、君のルームメイトが単に努力すらしないだけだろう?
それか、成績優秀な君が彼に勉強を教えると良い」
小馬鹿にするような態度で臨也が言う。自分が作った問題をカイトのような生徒に
解けるわけがないと言わんばかりだ。
以前カイトはレンから直接、例の問題を見せて貰ったが、当時高2のカイトから見て、
明らかに高校で習うような問題が半分くらい混じっていた。
「そういう問題ではありません。ちゃんと、その学年に合った問題を出すべき…」
カイトは突然、話すのを止めて絶句した。瞳孔が開き、鳥肌が立ち、指先が無意識に震える。
それは、臨也が冷酷な目でカイトを見つめていたためだ。
「生徒である君が、教師である俺の教育方針に意見する筋合いはないよねぇ?
人の心配する余裕があるなら、自分の受験を心配しなよ」
そう言うと臨也は背を向けると、歩いて暗闇の中に消えて行った。
カイトは暫く身動きすら出来ず、立ち往生するしかなかった。


「あ。カイトさん、お帰りなさ…って、カイトさん、どうしたの?!」
顔を青ざめながら寮に戻ってきたカイトを見て、レンは慌てて彼に駆け付けた。
カイトはレンに迷惑をかけさせまいと笑みを作る。
「レンくん、ごめん…。折原先生を説得出来なかったよ…」
「え…。折原先生に直接…!何か言われた?!」
自分の些細なことで、高等部のカイトまでも臨也に目を付けられたのではないかと思うと、
レンはカイトに言ったことを深く後悔した。
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