Above the Clouds vol.2

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此処はイギリス。一人の強面の70歳前後ぐらいの老人が、屋敷内の自室で日課になっている就寝前の喫煙をするために、
高価そうな椅子に腰掛け、ふんぞり返りながら煙草を取り出した瞬間。背後から背筋が凍りつくほど凶悪な気配を感じた。
老人は体を小刻みに震わせながら、ゆっくりと後ろを振り向くと黒いワンピースを着た、"赤毛"で碧眼の可愛くて品のある少女が立っていた。
プライベートと命を大事にする老人は、就寝前は必ず自室に鍵をかけるので、余計に恐怖を覚えた。更に彼女に見覚えのある老人は
目を見開き、言葉にならないほどに驚いた。
「お・・お前・・昔、死んだ筈じゃあ・・他人の空似というやつか・・?」
「他人の空似では御座いませんの。私は確かに死にましたわ」
肯定をした少女に老人は固唾を呑み、体の震えが悪化する。
「まさか・・ゆ・・幽霊・・ってやつか・・!」
「似て非になるものですわね」
「・・どういうことだ・・?!」
だが、少女は老人の質問には答えずに冷酷な笑みを浮かべた。
「"人間界"に"戻って来れる"までに、52年もかかってしまいましたの。貴方に会いたくて仕方がなかったのですわ」
「お・・俺に会いたかっただと?!フヒヒヒ!奇遇だな、それは俺もだ!俺は、お前のことを忘れたことが、なかったんだからな!
そうだ、俺は女房を5年前に亡くしたから、今は独身だぞ?!金なら幾らでもある!お前の贅沢三昧にさせてやるから、結婚しよう!なぁ!」
やはり、少女は老人の質問には答えずに話し出した。
「聞いて下さいます?私が"彼の後を追って"52年間、どんなに探しても"あの世にも居ない"のですわ。こんなに悲しいことがありますこと?
貴方があんなことをしなければ、私はこの52年間も、こんなに悲しい思いをしなくて済んだのですわ。罪を償ってくれますわよね?」
"彼"と言う言葉を聞いた老人は、すぐに誰を指しているのかを理解し、52年前まで味わってきた怒りと嫉妬が蘇る。
「お前!まだ、あの男に執着しているのか!アイツは、もう過去の人間だろうが!」
「彼を若干17歳で過去の人間にしたのは、貴方ではなくて?殺し屋に頼んだからって捕まることもなく、のうのうとこんな屋敷で、
マフィアのボスとして暮らせていることが許せませんわ」
怒りを露にしている老人とは真逆に、少女は冷静な表情を崩さず、淡々とそう言った。
「そんな奴のことは忘れて、お前は俺と結婚すれば良いんだよ!」
老人はそう言って、少女をベッドに押し倒した。少女のEカップの巨乳に触れようとした瞬間、男の手が止まった。
―手が、動かん・・!―
「そんな"血まみれの手"で触らないで下さる?私に触れていいのは、彼だけですわ」
少女はそう言って冷酷な目で老人を見つめた。
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