Above the Clouds vol.1

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何処を見渡しても何もない、暗闇の世界。
そんな中に、身長155cmほどの幼さが残る顔が気になっているのか、顔を隠すような髪の長さの黒髪で、
地味目の一人の中学生ぐらいの少年が目を閉じて横たわっていた。
そこに、1人の少年が彼を見つけると、彼の前でしゃがみこんだ。
彼は明らかに17,8ぐらいの少年なのだが、白のYシャツに、白に近いライトグレーのスーツ、下に同色のベストを身に着け、
先に百合の紋章が描かれている同色のネクタイを締めているため、学生ではないのだろうか。
品のある美麗な顔立ちに、身長は170cmに細身、ブロンドの髪に金色の目をした白人である。
「彼は・・日本人ですね」
彼は日本語でそう呟くと、少年の髪に触れた。
―日本人・・―
自分が呟いた言葉に後悔して彼は俯くと、少年は目を覚ました。
「あ・・えーっと・・此処はどこ?」
変声期を迎えたばかりの声で少年は寝ぼけながら、目を擦って彼に尋ねる。
日本語で喋ったため、自分の予測が当たってしまったと彼は思った。
「此処は心を閉ざし、それがご自身ではどうしようもなくなった者が来る世界です。
申し遅れましたが、僕は此処の案内人をしているルイという者です」
「案内人?」
「ええ。此処に迷い込んだ者を現実への扉へお連れするのが、僕の仕事です」
ルイと名乗った少年の言っていることが矛盾しているような気がして、少年はまた尋ねる。
「どういうことだよ?此処に迷う奴は、心を閉ざしてるんだろ?そう言う奴を嫌な現実に連れ戻すとか最低じゃねーか」
「確かにそうです。しかし此処に長居すると、貴方もいずれ現実世界では"死んだこと"になりますよ?」
事故でも、病死でも、自殺でも、殺されるわけでもなく、ただ"死んだこと"になるという、
突然"自分の存在が消える"ことになるとも聞こえるこの言葉に、少年は恐怖を感じた。
「で・・でもよ、ルイはどうなんだよ?此処の案内人ってことは、ずっと此処にいるってことだろ?アンタは・・"死んだこと"になってるのか?」
「・・それを貴方が知ってどうしますか?」
「・・・・」
確かに、知ったところで何もないだろう。だが、質問には答えて欲しいものだと少年は思った。
「ご安心を。ただ現実へ、お連れするわけではありません。迷い込んだ者の精神安定をさせるのも僕の仕事ですから」
「精神安定?医者か何かかよ?」
「そうですね・・似て非になるものでしょう。あまり長時間、貴方を此処に居させることは出来ませんので、本題に入りましょう」
優しく、落ち着いた声で話すルイに、少年はいつの間にか、ずっと彼の顔ばかり見ていることに気付いた。
―まさか、俺が男に見惚れてたと言うのか?!いや、確かに俺なんかとは同じ生き物に見えないぐらい綺麗だけど。
日本人じゃないから余計そう思うのか?・・じゃなくて!別に話してる奴の顔を見るのは普通じゃあないか!―
少年は顔を熱くさせながら自分に思い聞かせていると、ルイは口を開いた。
「・・本題に入っても宜しいですか?」
「あ・・すまない」
少年は直感的に、ルイが自分の考えを見透かしているような気がして、心臓の鼓動が高鳴る。
「掟上、僕は貴方を"タダ"で現実へお連れすることは出来ません。よって、貴方にも掟に従って頂きます」
「・・何だよ、掟って・・?」
大金を払わないといけないのか、もしくは体の一部を"切断して"渡さなければいけないのか、そんな不安に襲われ、少年は固唾を呑む。
だが、ルイは表情を変えずに淡々と説明をしだした。
「掟は2つです。1つは僕に貴方の本名を名乗ること。2つ目は・・」
―名前を名乗ると言うことは、2つ目は実印とかァァッッ?!―
「僕とキスすることです」
「ファッ?!」
少年は危険な方向ばかり考えていたため、気抜けしてしまい、間抜けな声を上げた。
「・・と、言いながら、実は100万払えとかじゃなくて?」
頭に来たのか、今まで冷静だったルイが少し表情を曇らせた。
「"僕ら"は、そんなことを考えもしませんよ」
「僕ら?仲間が居るのか?」
「それを貴方が知ってどうしますか?」
「またそれかよ!何でアンタのことを聞こうとすると、話を逸らすんだよ?!」
「貴方には関係のないことだからです」
「・・・・」
キッパリ言われてしまうと、少年も黙るしかない。だが、そんな少年を見ても、ルイはまた淡々とした口調で問う。
「どうします?掟に従い、契約をしますか?」
「・・さっき此処から出なかったら、俺の存在が現実世界からは消えるって言ったよな?
もし、アンタの言う契約をしないと言ったら、俺はずっと此処に居て、アンタとも好きな時に会えるのか?」
少年の問いに、ルイは困った表情をした。
「契約破棄になった場合、貴方は永遠にこの場所に居れますが、貴方の姿は僕の前から消え、貴方の声も聞こえなくなります。
即ち、貴方の姿が誰にも見えなくなり、亡霊のような存在になるのです」
「・・・・」
「ハッキリ申し上げますと、中には契約破棄や違反をした方もいらっしゃいます。そういった方々も今、此処にそうですね・・
4人ほどいらっしゃいます。気配だけでしたら分かりますので」
「・・・・」
勿論周囲には誰も居ない。少年は全身鳥肌が立った。無意識に体が小刻みに震える。
「違反・・って・・なんだよ・・?」
「契約違反は、先ほど掟の中にキスをすると申しましたが、中には"その先"を求める方もいらっしゃいます。
しかしながら、それは契約外になるため、契約違反となるのです。契約違反も、契約破棄と同じ処置が施されます」
―嗚呼。この顔でキスなんかされちゃあ、性別問わず発情する奴が居るだろうなぁ。まぁ、俺は絶っっ対ないけど!―
少年は、また自分に思い聞かせ、自分の頬を両手でバシバシ叩いて気合を入れると、息を深く吸った。
「俺は、立川 亮!17歳のSK高校2年!いつでも来いッッ!!」
緊張のあまり、少年―亮は、言わなくても良い情報まで言ってしまった。
―17歳・・なのですね―
中学生にしか見えない風貌、そして"自分が死んだ年齢"であることに、ルイは驚きを隠せなかった。
「立川 亮・・。貴方は掟に従い、契約をすると言うことですね。了解しました」
「そーだよ!は・・早く、来いよッ!」
亮がそう言うと、ルイは彼の身長に合わせて少し屈んだ。
「目を閉じてくださいね」
吐息が混じる声に、亮は緊張のあまり心臓が脳内にまで響いた。
―こ・・これは、発情してんじゃあねえぞ!キスなんか初めてだから、ちょっと緊張してるだけなんだからな!
そうだ、アイツ、綺麗な顔してるけど野郎だぞ!俺と同じの付いててだなぁ!―
亮が目を強く瞑りながらまた、自分に思い聞かせていると、一瞬だけ暖かく柔らかいものが唇に触れたような気がした。
「これで契約は終了です」
ルイの優しい声が聞こえ、亮は目を開けて唖然とした。
「え・・。あ・・そうなの・・」
―漫画とかに出てくる、すげーのが来るのかと思った―
未だポカンと口を開いている亮に、ルイが問う。
「精神的に落ち着いた気がしませんか?」
言われてみれば、今までの苛立ちや不安、ストレスが抜けているように感じ、そのせいか体も軽くなっているような気がした。
「確かに・・」
「なら良かったです。では、現実への扉までお連れしますので、付いてきてください」
そう言いながら、ルイが亮に手を差し伸べた。亮が疑問そうに口をポカンと開ける。
「僕と手を繋いでください。この先、繋いでいないと扉まで辿り着けません」
「・・分かった」
それなら仕方がないと思いながら、亮はルイの手を取った瞬間。
―暖かい・・何だよ、これ。触ってるだけで心の中の悪い部分が浄化されるっていうか・・―
亮が思っていることが分かっているのか、ルイは暫く彼を無言で見た後、口を開いた。
「それでは、行きますよ」
「あ、嗚呼・・」
亮の了解を確認した後、ルイは彼の手を引いて歩き出した。亮もルイに着いて行く。
何もない暗闇を歩いて3分ほど経った頃だろうか。明らかに人が飛ばされるほどの強風が、ルイと亮を横切る。
強風は止むことがなく、ずっと2人を横切りながら吹き続ける。
「な・・?!何だよ、この風?!」
「この風は、人間を扉まで近づけさせまいとする"悪の悪戯"です。今、僕の手を離せば、貴方も瞬時に吹き飛ばされますよ」
「そうか・・」
ルイが起こしている行動は、全て意味のあるものだということを亮は理解した。
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