Above the Clouds vol.1

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その後、30分ほど歩くと白い扉に辿り着いた。扉の前まで来るとようやく風も止み、ルイは亮の手を離す。その瞬間、亮は何処か寂しさを感じた。
「お待たせ致しました。お時間がかかってしまって申し訳ありません。この扉の先は、貴方の部屋に繋がっています」
「そうか・・」
亮は呟くようにそう言ってから、ルイに尋ねた。
「・・もう、アンタには会えないのか?」
「貴方が、僕を想い続けてくれれば、またお会いできますよ」
「・・そうか」
ルイが話すことは不思議なことばかりで、本当は質問したいことが山ほどあるが、また"関係ない"と言われて突き返されると思うと、
亮は怖くて何も聞けなかった。
「此処でしか会えないのか?」
疑問だらけの亮は、当たり障りのない質問をしてみる。
「貴方が心を閉ざして、ご自身ではどうしようもない時はこの場所になってしまいますが、そうでない場合は、別の場所でもお会いできますよ」
「分かった・・。またな」
「お気をつけて」
亮は扉を開けると、思い出したように立ち止まった。
「ありがとな・・」
恥ずかしさのあまり、ルイの顔を見ることができず、正面を見たまま礼を言った。
「いいえ。貴方は、これからも生きてください」
「あ・・嗚呼・・」
突然、思いも寄らない言葉を言われ、亮はタジタジになりながら扉を閉めた。



気付くと、亮は自室のベッドで寝ていたようで、最初に目にしたものは、見慣れきった天井だった。
―夢だったのか・・?確か、俺は暗闇の中に居て、ルイって奴と会って、謎過ぎる奴だけど、良い奴だった。
礼儀正しくて、品が良くて、手が暖かくて、・・綺麗な奴だったな―
「・・って、夢なのに何でこんなに細かく覚えてるんだ?!・・まぁ良い!そう言うときもあるさ!
俺が男にときめくなんて、ありえねーんだからなッ!そう!昨日、テストで名前書き忘れたせいで0点取った時ぐらいありえねーんだよッ!」
亮は我慢が出来ず、思ったことが口に出てしまっていた。
必死でテスト勉強をした期末試験の英語で、採点自体は満点だったにも関わらず、名前を書き忘れたせいで0点を取り、
クラス内で公開処刑を食らい、死にたくなるぐらい落ち込んでしまったのが、昨日、彼が"暗闇の世界"へ行った理由である。
「亮!アンタ、起きてるなら、さっさと朝食食べて学校行きなさい!そろそろ時間が危ないんじゃあないの?!」
ドアの向こうから母親の声が聞こえ、亮は時計を見ると、あと5分で家を出ないと遅刻する時間だった。
「うっわ!やべぇ!」
亮は慌てて制服に着替え、適当に洗顔をして朝食を食べてから急いで家を出た。
「亮!アンタ、テストを始める前には、絶対に名前を書くのよッ!」
玄関のドアから顔を出して、母親がそう念を押した。
「分かってるって!行って来る!」
―くっそー!絶対、今日は他のクラスでも知れ渡ってるッ!今日ほど学校に行きたくない日はねえぜッ!―
亮はムシャクシャしながら登校していると、隣のクラスにいる幼馴染の奨(ショウ)が声を掛けてきた。
「よぉ、マメ太!英語のテストの名前を間違えて"マメ太"って書いちまったから0点ってマジかよ?お前、皆がマメ太って呼ぶからって、
本名を忘れるんじゃあねぇぜ!」
そう言いながら、奨がゲラゲラと馬鹿笑いをする。亮は幼い頃から、常に背の順で一番前だったため、彼のあだ名はずっと"マメ太"なのだ。
―うっわ・・。既にコイツに知れ渡ってたか・・―
「ちげぇよ!名前を書くこと自体、忘れてだなぁって言わせんな!これ以上からかったら、一生口を聞かないぞ!」
「あー悪かった悪かった!じゃあ、お詫びに親友の俺様が、お前のための合コンを立ち上げてやろうじゃあないか!」
「は?自分のための合コンの間違いだろ?どうせ、外見厨房のイケメンでもない俺を公開処刑するんだろうが」
可愛い顔はしているが、小さくて中学生にしか見えない亮と違って、奨は身長が178cmで細身だが肉付きもあり、
座高は亮と大差がなく、茶髪でファッションモデルで居そうな、女性受けしやすい外見・・俗に言うイケメンである。
女の前で、そんな男と一緒に並んだところで、自分を選んでくれるような女は余程の物好きだと亮は思う。
「お前さ、この世の女子が皆、俺みたいなのが好きだと思ってるんじゃあねぇぜ?苦手だのチャライだの言われる時もあるんだ。
安心しな。マメ太みたいな、可愛い男子が好きな女子を集めて来っから。お前みたいなタイプが好きな子は基本、俺みたいなのは眼中にねぇからよ!」
―まぁ、コイツがチャライのは事実だけどな―
そう思いながら、亮はジト目でヘラついて楽しそうにしている奨を見る。その時、ふと亮の脳裏にルイの顔が思い浮かんだ。
―ルイだったら、合コンとかって、どう思うんだろうな?―
「悪い・・。考えさせてくれないか?」
「は?だから、お前みたいなタイプが好きな子を集めるって言ってるんだぜ?女子と付き合いたいとか思わないのかよ?」
「そりゃあ・・ないわけねぇよ。俺らんとこ男子校だから中々出会いとかないし。でも、1日だけ待ってくれないか?」
―何言ってるんだよ、俺!俺を好みだと思ってくれる女子と出会えるチャンスじゃあねえか!なのに、何でルイの考えを聞いてからにしたいなんて、
馬鹿なことを・・!あーゆーお坊ちゃんみたいな奴は、俺らのような一般庶民がやる合コンなんて無縁に決まってるじゃあないか!―
亮は自分が言ったことに悔やんでも、訂正出来る言葉が口に出ない。
「あ。もしかして、マメ太みたいなタイプの好みの女子だけに絞って、外見は無視するとか思ってる?俺だって親友には幸せになって
貰いたいし、絶望させたくねぇからよ。相手の顔や性格ブスは選ばねぇって!」
「お前の気持ちは凄く有難い!だけど、ホント悪い!1日待ってくれ!」
―もしや、ルイと手を繋いだり、ちょっとキスしただけで、俺はアイツと恋人気取りになってるのか?!いや、そんな筈は・・。
だが、恋人の許可を取ってからじゃあないと合コンには行けない。そんな気分だ・・―
混乱し始めた亮に、奨は不思議そうに小首を傾げた。
「んー。よく分かんねぇけど、お前がそんなに言うなら1日待ってやんよ。それで良いんだろ?」
「嗚呼、悪いな」
奨の合コン勧誘を受けている間に、学校まで着いてしまった。2人は下駄箱で上履きに履き替えると、奨が声を掛けた。
「マメ太。悪いけど今日、日直だから職員室まで日誌取りに行かなきゃいけねぇんだ」
「嗚呼、分かった。また昼休みにな」
「おう、またなー」
亮は一人で教室に向かっている間も、ずっと脳内はルイでいっぱいで、合コンのことなど忘れていた。
―夢に出てきただけの奴を何故こんなに執着する必要があるんだ?しかも、相手は男だし・・―

『貴方が、僕を想い続けてくれれば、またお会いできますよ』

ルイと別れる前に言われた言葉を思い出す。
―どれだけ、アイツのことを想い続けていれば、今日も夢に出てきてくれるんだろうか・・?―
ルイに関しては疑問だらけだったが、亮は取り合えず、今日1日は出来るだけ彼のことを考えるようにしようと決めた。
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