Above the Clouds vol.1

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奨が連れてきたのは、資料室だった。此処の資料室は、特に機密事項のものもないため、17時までは鍵が開けっ放しである。
周囲は化学室や音楽室といった特別教室ばかりのため、昼休みは殆ど誰も通らない。奨は亮を資料室に通すと即座にドアを閉め、
亮が逃げないように彼を奥にまで連れて行った。
「こんなとこに連れてきて、何のつもりだよ!」
「誰だよ、お前に二度と会わないなんて言った奴・・!俺が、そいつを説得させてやんよ!」
「違う!アイツが悪いんじゃあない!俺がアイツに会えなくなったのは、誰のせいでもねーんだよ!」
―ルイのことを話したところで、コイツは絶対に信じてくれないだろうしな・・―
亮がそう思っていると、奨が思い詰めた表情を浮かべていた。
「じゃあ・・俺はお前に何をしてやれるんだ?どうすれば、お前は幸せだと思ってくれるんだ?」
「え?」
「昨日、合コンの話を持ちかけたのだって女の子を紹介したら、お前が元気になってくれるんじゃあないかと思ったからだ。
俺は、お前に幸せになって欲しいんだよ!今のお前は、俺が何をすれば元気になってくれるんだ?!」
「今は、取り合えずメシ食いたいんだけど・・」
「学食は俺が奢るから!・・じゃなくて、精神的にお前が元気になるのに、俺が出来ることはねぇのか?!」
それを聞いて亮はルイに触れられると、精神的に落ち着いたことを思い出した。
「・・奨は、俺が抱きしめてくれって言ったら、してくれるのか?」
俯き、低い声で亮がそう言った。
「な・・!」
まさか、そんなことを言われるとは夢にも思ってなかったので、奨は驚きを隠せない。亮は俯いたまま、軽くため息をついた。
「・・ほら、男相手になんて出来ないだろ。分かったなら、早くメシを食わせてく・・」
亮が言い終わる前に、奨が瞬時に抱きしめていた。
―マジかよ・・―
自棄に言ったことに行動を起こしてくれた奨に、亮は絶句する。
―こうされると、改めてコイツは俺なんかより全然でかい体してんなぁ。俺がスッポリ入っちまうとか・・。幼馴染だからか、何か悔しい・・―
「そういえば、スキンシップすると落ち着くよなぁ・・精神的に」
そう言いながら、奨は亮の頭を優しくポンポンと叩いた。
―ルイとは、また違う暖かさ・・。確かにルイの暖かさって、精神的に落ち着くと同時に、心が洗礼される感じだったけど、奨のは、
"普通の人間の暖かさ"だよな・・。当たり前だけどさ。この"普通の人間の暖かさ"でも、十分精神的に落ち着けるもんなんだなぁ―
亮はそう思いながら、ゆっくりと奨の背中に腕を回す。
「おい、亮・・。そんなんされると、勘違いしちまうんだけど・・」
「勘違いって何を?」
素で分からない亮に、奨は顔が熱くなったのを感じた。
「お前が・・俺のことを好きなんじゃあねぇかって・・思っちまうだろ!」
それを聞いた亮は、慌てて手を離した。
「・・そ・・そんなこと言ったら、お前だって何で俺の要望に応えたんだよ・・?!」
「だ・・だってよ、お前がそれで元気になれるんだったらって考えたらよぉ・・!」
予想外の展開に、2人してパニックに陥ってしまう。奨は咄嗟に亮の体から手を離した。
「べ・・別に、嫌々されたって嬉しくねぇよ・・!」
「何でそうなるんだよ・・!お前のことが好きだから、嫌なわけねぇだろうが!」
突然告白をされ、暫く沈黙が訪れた。
―友達としてだよな?と聞きたいけど、あの言い方・・絶対違う方の"好き"だよな・・―
亮はそう頭の中で整理をしてから、静かに尋ねた。
「・・マジで言ってんのか?」
「嗚呼、マジだ!それに気付いたのは中1の時だったよ!ずっと一緒にいたお前を別の目で見るようになってたんだ!」
顔を少し赤らめながら、照れくさそうに奨が話す。そんな顔をした奨を長年の付き合いからしても初めて見た。
「だって・・お前、女子とばっか遊んでるじゃあないか」
「お前とあんま一緒にいすぎると、どんどん好きになっちまいそうで・・。こんなん、お前に気付かれて幻滅されるのは絶対に嫌だったしよぉ。
だから、他の奴らと出来るだけ一緒にいるようにして、アイツらには悪いけど憂さ晴らしをしてたんだよ!」
実は奨が亮と会うのは登下校と、この昼休みしかない。休日や他の休み時間に会うことはなく、時々亮が奨のクラスを覗くと、
彼の周りにはいつも奨と同じタイプの男女がいた。明らかに、亮と一緒にいるときより楽しそうにしていたし、奨の"お仲間"は、
奨がつるんでいる地味でチビの亮が気に食わなかったのか、亮にちょっかいを出してきたこともあり、それによって亮が奨に八つ当たりして、
"登下校や昼休みもアイツらと一緒に居れば?!"と、喧嘩になったこともあるほどだったが、それにもちゃんと事情があったことを知った。
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