Above the Clouds vol.1

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「だから昨日、お前の好みを聞いたときに本当はすっげぇ凹んだんだぜ?!俺とは真逆どころか、別世界って感じでよぉ」
奨は気付いていないかもしれないが、亮は近くの窓の外から視線を感じた。外を見ると、白金の毛に金色の目をした猫が、
木の枝に座り込んで奨を見ていたのだ。
―何だ、あの猫・・?見たことのない種類だな。品があって随分、高級そうな・・―
亮がそんなことを思っていると、不審に思った奨が尋ねた。
「ん?外なんか見て、何かいるのか?」
「いや・・白金の毛をした猫がそこに・・」
「猫?」
奨が首を傾げながら窓の外を覗くが、そこには猫など居なかった。
「あれ?逃げたのか?今さっきまで、そこにいたのに・・」
亮が不審そうに呟くと、奨が彼の髪をワシャワシャと髪をかき乱した。
「まぁ、猫だからな。それより、亮は俺が付き合ってくれって頼んだら、付き合ってくれるのか?」
先ほどの亮と同じような言い方で、奨はそう尋ねた。
「な・・!何言ってんだよ・・!」
―展開が早すぎんだろ!―
亮は驚きを隠せず、口をパクパクさせる。その時、奨が今までに見たことがないほど、真顔で亮の顔を真っ直ぐに見た。
「亮が別に好きな子がいることを俺がとやかく言う筋合いはねえし、俺は亮の好みとは真逆っぽいから、亮は今後も、その子を好きなままで構わない」
「・・何が言いたいんだ?」
「その子とずっと会えないなら、その寂しさを俺が癒してやるよ」
亮はそれを聞いて、また沈黙が訪れた。突然すぎる故に、亮は頭の中で整理も何も出来ていないため、混乱しているのだ。
「あのさ・・俺なんかの何処が好きなんだ・・?」
チビでか細く、地味でどちらかと言えば暗めの亮は、元から自分に自信がなかったし、告白されたのも初めてのことなので疑問だった。
「可愛いとこ、小さいとこ、守ってやりたくなるとこ」
「・・俺、男なんだけど」
奨は即答したが、全て男相手に言う好みではなかったため、亮は愕然とする。
「あとは、何があっても俺と一緒にいてくれるとこと、話をちゃんと聞いてくれるとこだなぁ」
「・・・・」
女をコロコロ変える奨は、色々とアクシデントもあったりするのだが、それでも亮は彼を見捨てることをせず、奨が電話をすれば必ず出てくれて、
黙って話を聞いたりするのは日常茶飯事だった。最初は外見だけで好きになったのであるが、友達思いの面もあって、どんどん惹かれていったのだろう。
「というわけで、俺ずーっと亮を一筋で好きだったわけよ。だから初恋も、お前だったりしてさ。だからさ、付き合ってみねぇ?」
「・・考えさせてくれ」
亮の答えに、奨はもどかしい気持ちになったが、元からプラス思考である奨は取り合えず笑みを浮かべた。
「即NOって言われなくて良かったぜ!返事はいつでも良いからよ」
「あ・・嗚呼・・」
亮が頷くと、奨が彼の背中を軽く叩いた。
「・・じゃあ、学食買いに行こうぜ!マジで俺が奢ってやっから!」
「いや、悪いから良いって・・」
「俺のせいで、メシ食う時間を削っちゃったんだから、そんぐらい詫びさせてくれよ」
「・・分かった」
亮が了承すると、奨と一緒に資料室を出て行った。その姿を木の枝にいる白金の猫が見つめていた。



いつも通り奨と一緒に帰宅し別れた後、亮は一気に肩の力が抜けた。
―まさか、奨に告られるなんてなぁ・・。全然、恋愛感情を持たれてる感じはしなかったし、ただの女好きだと思っていたのに。
奨が良い奴なのは昔から知ってる。奨はルイのことを好きなままで構わないって言ってくれたけど、俺が奨の立場だったら、
好きな人の心が別の人に向いているなんて嫌だ・・。でも、会えなくなったからってルイをすぐ諦めるのも難しい・・。俺ってつくづく嫌な奴だな―
そう思って亮がため息をつくと、自宅の前に昼休みに資料室から見かけたのと同じであろう白金の猫が亮の帰りを待っていたかのように座っていた。
「お帰りなさい、亮」
夢の中で何度も聞いたが、現実では初めて聞く優しい声が、その猫から聞こえた。
「その声・・お前、ルイか・・?」
「ええ。亮にご挨拶をしたく、今日は特別に"現実"でお目にかかりたいと思い、貴方のご自宅まで参りました」
「何で、猫の姿なんだ?」
「"あの場所"から出てきたばかりですので、まだ力が本領発揮出来ず、人間界では元の姿で維持することが難しいのです」
「そうなのか・・」
本当は、実際の姿でルイに会いたかった亮は、少し残念に思った。
「大変恐縮ですが、良ければ亮の家でお話をしたいのですが、宜しいでしょうか?すぐに出て行きますので」
「あ・・そうだな」
傍から見て猫と真面目に会話をしているのを見られるのは気まずい。亮は足早にルイを家の中に入れた。
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