思いと歌と浮遊城

□5つの彩火
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午前7:30。
私はいつものように目が覚めてしまっていた。

SAOには、プレイヤーを強制的に叩き起こす、アラーム機能が存在するが、私は一度たりとも使ったことがなかった。

正直なくても起きられるし、システムに起こされるくらいなら、カイトに優しく…。

そこまで考えたら、ものすごく顔が熱くなってしまった。
少し苦笑しながら隣を見ると、実年齢の5歳は低く見える、カイトの寝顔があった。

いつもは気品のある立ち振る舞いで、周囲から格好いいと思われている(当然私も含まれる)その姿も、寝ているときは、異常性癖に危うく目覚めてしまいそうなくらい可愛らしいのだ。

彼が起きるのは30分後。
のんびり彼の寝顔を観察することは、私の趣味になりつつある。

「…今はこんな近くにいるけど、向こうでは距離があったのよねぇ…はぁ…。」

ここにくる前、私たちの距離はかなり離れてしまっていた。

中学生だった私たちは、男女だった上、学年が違ったので、話す機会が減っていたのだ。
そのことにやりきれない悲しみと苛立ちを感じた私は、一度だけ彼にあたってしまったことがあった。

悲しそうな顔で、
「沙羅は俺のことが嫌いなのか…。」
と、彼が言ったのを今でも覚えている。
…思い出したら、なんだか急に不安になってしまった。

ソワソワしてしまって耐えられなかったので、思わず彼に抱きつく。
「もう離さない…もう迷わない。どこに行ったってずーっと一緒だよ。」



時刻はもうすぐ8時。
柔らかな日差しが2人を照らし出した。
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