Dream

□ただひたすら君を想う 3
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かすかな寝息が聞こえた。

藤真は顔を後ろに背けると、スヤスヤ眠る陽菜希に気付いた。



…走り回って疲れたんだろうな。



その天使のような寝顔をずっと見ていたいが、おんぶしているのでそうもいかない。

できるだけゆっくり歩く。

すると向こうから人影が近づいて来た。



「こんばんわ!藤真先輩」



藤真は驚いて歩みを止めた。



「…桐原?」



藤真は目付きを鋭くした。

茜はそれに気付き、明るく微笑む。



「…ひなちゃん、寝ちゃったんですね。探し回って疲れたのかな。
でも無事会えたみたいで良かった」



藤真はいつもの茜となにか違う事に気付いた。

藤真のすぐ隣に来て、陽菜希の寝顔を見ながら呟く。



「…僕は今でもひなちゃんが好きです。



あなたに負けないくらい大好きです。



…でも、それだけじゃどうにもならない事があるって分かりました。



あの子の本当の笑顔は、僕じゃ出せない…」



茜は苦笑した。



「…桐原」



するとまたいつもの笑顔で言った。



「でも、あきらめた訳じゃないですからね。

この子を泣かしたりしたらソッコー奪いに行きますから!」



藤真は不敵な笑みを浮かべた。



「それはないから安心しろ!」



茜は微笑むと、そっと陽菜希の髪を撫でて暗がりへと消えて行った。

その時の少し淋しそうな表情に胸が痛む。



しばらく歩くと陽菜希がモゾモゾと動き出した。


…起きたか?


まだ起きたてでぼぉーっとしているようだ。



「ひゃぁ!ご、ごめんなさい!私寝ちゃったんですね!ななんてことを」



慌てた様子で言った。

藤真はクスクス笑った。


「寝心地が良かったんだろ?構わないからまだ寝てていいぞ」


そう言われたが寝れる訳ない。

二人きりの静かな時間が流れる。

藤真が優しく問いかけた。


「…二宮はいつから俺を好きでいてくれたんだ?」


「え?…あの、体育館の裏で初めて会った時です…!」


「そうだったのか…。俺も同じだ」


その時の記憶が鮮やかに蘇る。

あの時から同じ想いを抱いていたのだと思うと、素直に嬉しかった。

家に着く頃には、足の痛みもほとんど引いていた。

藤真に平気だと伝えると、ちゃんと冷やすんだぞと怒られた。

それに頷いてお礼を言うと、玄関のドアに手を掛ける。

その時、後ろから急に抱き締められた。

藤真は屈んだ姿勢で陽菜希の耳元で囁く。


「…今日は楽しかった。おやすみ」


「…は、はい。おおやすみ…なさいっ」


心臓はバクバクしていて、動揺したまま手を振って別れた。
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