Present's

□もう1度キミにプロポーズ!
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荒れた大地。

人はおろか、動物の姿すら見当たらない。

草木も生えておらず、辺りは黄褐色の岩盤に覆われ、
所々に大小様々な岩石が転々としているばかりの見渡す限り見事に殺風景な場所―。

「‥‥‥」

かつてここは、俺達の修行の場だった。

ベジータにフリーザ、セル。
その他、これまでに幾度も闘ってきた強力な敵と対峙する前は、決まってここで修行の日々を過ごしたものだ。
全ての闘いが終わり、静かで平和な世界を取り戻した今は、
以前のように修行を積み技を磨く必要もなく、ただ穏やかな時間が流れていくだけなのだが。

大勢の人々で賑わう街からは遠く離れ、
ただ、沈黙のみが支配する荒野。

その片隅の岩山にて、1人瞑想にふけっていた時。

「!!」

不意に遠方から、微かな"気"を感じた。
瞬間的に敵襲かと思ったが、次第に近付くそれからは敵意や殺気立った気配は微塵も感じられない。
柔らかく暖かく、覚えがあると言うよりはむしろ、
幼い頃から馴染みその身にすっかり染み付いた"気"と、その正体。

「‥悟飯か」

閉じていた瞼を開け、視線を上へ向ければ遥か頭上にその姿が浮かんでいた。

「お久し振りです、ピッコロさん」

至極嬉しそうな顔いっぱいの笑顔でそう告げた後、俺が瞑想をする傍らにふわり、と難なく着地した。

「‥何をしに、ここへ来た?」
「修行です。鍛錬を怠ると、体が鈍ってしまうので」
「‥見え透いた嘘を吐くな。全ての闘いは終わった‥もうこれ以上、修練の必要はないだろう。それに―」

学校はどうした?

悟飯の夢は"学者"になる事。
幼い頃から修行や戦闘に明け暮れる日々、だがその最中にも勉学を怠る事なく熱心に学業に勤しむ姿をよく見かけたものだ。

そんな悟飯は今、ハイスクールという所へ通っている。
そこがどういう所で、どんな場所なのか、何を学びとしているのか。詳しい事は知らない。
だが、悟飯の目指す"学者"になる為には必要不可欠な場所だという事は理解している。
最近は授業が忙しいのか、レポートや試験に追われ、
遅くまで机に向かっている事も少なくないと、確か悟空が話していたような。

だから、先の言葉も正にその通りな訳で。

だがそうであるならば、今日も、そのハイスクールへ行っているはずではないのか?
そう指摘すれば、観念したように苦笑いの表情を浮かべ、小さく肩を竦めた。

「あはっ、やっぱりピッコロさんには全てお見通しですね。―けど、そう言うピッコロさんこそ、ここで何を‥?」
「‥‥瞑想だ」
「珍しいですね、こんな場所で‥。いつもなら神殿の奥に籠もってるのに」

確かに、悟飯の言う通りだ。
普段の俺は、神殿の奥に籠もり静かに瞑想に浸るのが常だ。だが、時々‥神殿を離れたくなる時がある。
そういう時は、決まってここに来る。
もう随分と前から慣れ親しんでいる場所だからだろうか。
可笑しな話だが、当時の血生臭い記憶の中にも妙な懐かしさを覚えるこの場所は、
神殿に比べ、何故か落ち着くのだ。

その理由は、きっと―。

「‥ここに来れば、アナタに会える気がしたんです」
「!!」

と、まさに今、俺が思わんとした事を口にした悟飯に驚いて顔を上げる。
どうしても、アナタに会いたかったから。
だから、こうして会えてすごく嬉しいんです。照れたように笑みながらそう続ける悟飯は、本当に幸せそうな顔をしていて。

釣られて、思わず笑みが零れる。

「ピッコロさん」
「ん?」
「大好きです。‥いえ、心の底から愛してます、誰よりも」
「!!」

瞬間、不意に囁かれた愛の言葉。
自然な様子で紡がれた言葉だが、一方で妙に艶めかしく聞こえた気がして。
だが、俺が反応するよりも僅かに早く悟飯が動き。
刹那、暖かな何かに包まれたかと思えば、悟飯の腕に収まっていた。

「悟飯、」
「‥ねぇ、ピッコロさん。アナタは覚えてますか?"あの日の約束"を」


‥‥約束‥。


悟飯の腕に抱かれながら、俺は昔の記憶を手繰り寄せる。もちろん、記憶にない訳ではない。
‥そう、あれはまだ、悟飯が今よりも遥かに幼かった頃の事。



幼い頃の悟飯は、何故か不思議なくらいに、
父の悟空や、また母のチチよりも俺によく懐き、俺の後を追っていたものだ。
そして、自らの"お気に入り"の1つとでも考えていたのか、
悟飯は俺に対し、口癖のように頻繁に『大好き』という言葉を繰り返していた。

それがある日。

突然に、何の前触れもなく、プロポーズを受けた。『僕と結婚して下さい』と、真っ正面からストレートに。
一生、アナタを幸せにする事を誓います!後悔なんて絶対にさせませんから、僕を選んで下さい!と―。

一体どこで覚えてきたのか知らないが、言葉足らずながらも懸命に迫られたのをよく覚えている。
だが単に、幼心からくる甘えの類と思い、さして気にも留めていなかった。

が、あまりにしつこかった為に

『貴様のようなガキなんぞと結婚など出来るか!
‥そんな台詞はせいぜい、もっと成長して、俺と対等に並べる程度の実力をつけてから吐くんだな』

そう、突き放すように振り払ったのだが。

しかし、その言葉に静かに『約束ですよ』と返した悟飯は
以降、誰にも負けないくらいの修行を幾重にも積み、自らを高めていくその様は明らかに見て取れていて‥。



「‥‥‥そうか、あの時の‥」

当時の事を思い返しながら、俺は懐かしむように記憶を反芻しながら小さく呟いた。
同時に、幼い頃からの小さな"約束"が未だに悟飯の胸に生き続けていた事に驚きながら、また、
その想いが本物であり、一心に想われ続けていた事の幸せに喜びを覚えた。

「もちろん、覚えている」
「僕は、強くなりました。昔よりもずっと。
今の僕は、アナタと並べるくらい、アナタに認めてもらえるくらいに成長しているでしょうか?」

悟飯の真剣な瞳が、俺を捉える。
黒く澄んだ、綺麗な瞳だ。

「‥そうだな」

悟飯は、強い。
師である俺を越えるに留まらず、宇宙最強の名を手にするまでに成長した。
それに、ただ強さのみを極めた訳けでなく。優しさも兼ね備え、心身共に逞しく成長を遂げた様は誇らしくも思える。

「お前はもう、一人前の立派な大人だ。俺と対等なんてどころじゃない、‥むしろそれ以上にな」

もちろんその言葉は、微塵の嘘偽りも含まれない紛れもない事実だった。

すると、その言葉に至極嬉しそうな笑顔を浮かべ、抱き締める腕に更に力を籠めながら。
悟飯は幼い頃のあの日と同じように、唐突に言った。

「ピッコロさん。僕と、結婚して下さい」
「!‥悟飯」
「僕はもう、子供じゃない。自分が言っている事の意味も十分解ってます。
‥それに、この想いだって本気です。誰よりもアナタを愛しています。絶対に、‥誰にも譲る気なんてありません」

一言一言、込められた想いを噛み締めるようにゆっくりと紡がれる言葉。
だが同時にそれは、俺自身の内を代わって告げられているようなもので。
居心地の悪さにも似たどこか妙な感覚を覚え、

「―‥もういい」

気付けば、悟飯の言葉を制止していた。

「ピッコロさん‥?」

不意にかかった制止の声に、悟飯が困惑の視線をこちらへ向ける。
そんな悟飯に構わず、俺は躊躇う事なく悟飯を抱き締め返しながら静かに告げた。

「お前が俺を選んだように、俺の心も決まっている。"後悔させない"と言い切るなら、‥その言葉の責任は取ってもらう」

と、僅かに驚きの表情を浮かべたかと思ったその顔は、刹那、溢れんばかりの笑顔で満たされた。

「っはい‥!もちろんです!一生涯懸けて、責任を取らせていただきます!」
「当然だ」

お前が選ばせたんだからな。次いでそう言えば、アナタが選ばせたんですと返された。
相変わらず、口先だけは達者なヤツだ。

だが、満更悪い気がしないのも事実で。

身体を寄せ合っている事で身体に伝わる悟飯の温もりと、暖かな想いを感じながら、
俺は幸福(しあわせ)の余韻に浸った。

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