Present's

□Let's have a snowball fight!!
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秋が過ぎ、冬に入ってどれくらい経ったのかは定かではないけれど。
朝晩の冷え込みが次第に激しくなり、
数日前からちらほらと雪が舞う日が続いていたかと思えば、ついに―。

「わぁ‥!すごーい!」
「何何?どうしたのー?」

ある朝。

気のせいか、昨晩はこれまで以上にめっきり冷え込んだ夜だったと思っていたら。
それはどうやら間違いではなかったようで、寝惚け眼を擦りながらダイニングへ降りれば、
そこではガキ共の賑やかな声が響いていて。

「んだよ、どうしたお前ら‥。朝っぱらから元気だな」
「だってー!すごいんだよ、外!」
「ファルコも早く早く!」
「ちょっ‥、おい!一体何だって‥‥‥!」

俺に気付いたネスやリュカ、双子のアイスクライマーに誘われるままに手を引かれ、
窓際に寄ってみた時、俺は初めてその光景を目の当たりにした。


「‥すげぇ‥!」


それは、辺り一面を覆う白銀の世界。

ここ数年、久しく雪など積もった記憶のなかったはずのこのスマブラハウス周辺一帯に、
珍しく冬らしい風景が姿を垣間見せた、目覚めに相応しい朝だった。





 - Let's have a snowball fight!! -



「‥っつーか、何で俺がこんな事しなきゃなんねぇんだよ!」

朝一番に覚えた感動はどこへやら。
あれから、朝食と身支度との一通りを整えた俺は、
一段と冷え込んだ冬の寒さに耐え兼ねないと再度部屋の布団へ潜り込むつもりでいたのだが。
そんな俺の様子に構う事なく、むしろ、さも当然といったように、
マリオやリンク、その他数人の連中に捕まった俺は、
問答無用に慌ただしく厚手のコートや手袋等の防寒装備を着せこまれ。
表に出されたかと思えば、大きなスコップを手渡され―そして、今に至るという訳だ。
言わずもがな、雪かきをしろという事なのだろう。

防寒態勢は万全に整っているとはいえ、それでもこの寒さだ。
寒さに弱い俺は、少しでも長くこんな所にいたくはないというのに。

「ですがこんなに大雪だと、しっかり道を作っておかないと、街にも出かけられませんよ?」

ぶつくさと文句を零す俺に、すぐ隣で作業をしつつ、諭すのはリンクだ。
俺を含む年長組より一回りは年下のくせにやけに大人びた雰囲気を醸すしっかり者のリンクは、
スマブラハウスのメンバーの中でも置かれる存在である。
そしてその近くでは、ルイージ、ドンキーにディディー、
ルカリオなどがそれぞれの持ち場に分かれ手を動かしていた。

「けどなぁ‥明らかに俺より戦力になりそうなヤツは他にもいるだろうが」

‥そもそも、何故俺なんだ。

しかしよくよく周りを見れば、
俺よりも先に雪かきに駆り出されたであろうキャプテン・ファルコンは早々にガキ共と雪にまみれ、
デデデ大王やクッパの野郎まで、柄にもなく雪遊びに夢中になっている姿が目に映り。
その光景に俺は、ため息と共に思わず頭を抱えた。

「まぁそう言うな、ファルコ。少し大変な作業かも知れないが、
皆のためだと思って一仕事、力を貸してくれ。なっ?」

が、周囲の状況に加え、我がスマブラハウスの最年長にして
リーダー的存在であるマリオからの頼みとあれば無下に断る訳にもいかず。

「‥仕方ねぇなぁ‥」

こうなれば、目の前のやるべき事を早いうちに片付けてしまった方が最善のようだ。
暫し間を置いた後。俺は、観念したように再度大きなため息を吐き、
スコップを握る手に力を入れると、マリオやリンク達に倣い本格的に作業を開始した。







* * * * *



「―ふぅ‥、だいぶ進んだな‥。こんなもんか?」
「えぇ、そうですね。朝の状態に比べれば、足下の状態も少しは良くなったと思います」
「うん、ここまで綺麗になれば十分かな。君達が手伝ってくれたおかげだよ。ありがとう」

正確な時間は分からないが、雪かきを開始してから暫くの時間が経ったであろう時分。
辺りを見渡せば、目の前にはすっかり整備された煉瓦の道が広がっていた。
2人の言葉に満足した俺は、それまでの作業に見切りをつけ、
後は任せたとその場を去るつもり―‥だったのだが。


どすっ


不意に、何やら相当な重みを感じる音と同時に感じた後頭部への衝撃。
あまりの痛みに頭がぐわんぐわんと揺れ、
暫しの間、ダメージを受けた部分を支えながら立っているのがやっとだった。

「はっはっはっ、悪いな、ファルコ!つい手が滑ってしまってな!」

そして、ようやくふらつきが治まってきた頃。
俺が状況把握をするべく考えを巡らせていたその時、声をかけてきた人物、
そして視線を上げた先のその手にある物を見て、俺は確信した。

「おい‥っ!ファルコン!てめぇか、俺の頭に雪玉投げてきたのは!」
「大丈夫だ、意図的に狙った訳ではないからな!」
「ったり前だ!わざと当てられてたまるかってんだよ!
つか、てめぇが大丈夫でも、俺が大丈夫じゃねぇんだっての‥っ」

親指をグッと立て、爽やかに笑うファルコン。
見れば、もう一方の手、そして足下にはこれまた大きな雪玉がたくさん備えられていた。
さしずめ、雪合戦でもしているつもりなのだろう。
そんなヤツに鋭い突っ込みを返すも、どうやらまだ本調子とはいかないらしい。
畜生、まだ頭がガンガンしやがる。
と、そこへやって来たのは双子のアイスクライマー、ポポとナナ。
大丈夫?と心配そうに見上げて来る。
見れば、2人の両の手にもそれぞれ小さな雪玉が握られていた。

「‥あ?お前らも雪合戦してんのか?」
「そうだよ!」
「皆でチームに分かれて勝負してるの!向こうのチーム、すっごく強いのよ!」

その事を問えば、元気の良い返事が返って来た。

「そうだ!ねぇ、ファルコも一緒に雪合戦やろうよ!」
「わぁ、素敵!その方が絶対楽しいものね!」
「!は?いや、俺はそろそろスマブラハウスに戻‥」

すると、突然のポポからの提案。
だが、俺が答える前に歓声を上げ嬉しそうに飛び跳ねながら、
雪玉を放るとぐいぐいと腕を引っ張り俺を誘うナナ。
するとポポも加わり、両腕に力がかかる。

「だからっ、俺はやらねぇんだって!」
「やだー!ファルコも一緒が良い!」
「雪合戦、一緒にするのっ」

だがこの2人、一度言い出したら簡単に素直に引き下がる相手ではない。
が、まとわりいて離れようとしない2人を振り払おうと苦戦していたその時。


ドガッ


先程ファルコンから雪玉を食らったのとは反対側の頭に雪玉の当たる感触。
‥‥痛い。そして、冷たい。何て威力だ。

「わーい!当たった当たった!」
「油断してよそ見なんてしてるからですぅ〜!」

雪玉の飛んできた方向に目をやると、そこにいたのはカービィとヨッシー。
同じく、その手には雪玉‥。‥こいつらも、雪合戦の最中だってのか。
だが、そんな事を冷静に考える暇もなく、次々と雪玉が飛んでくる。

「おいこら、てめぇら!何で俺を狙ってきやがるんだ!」
「だって、ファルコは"敵"でしょ?」
「僕達の"味方(チーム)"じゃないなら、容赦しないですぅ〜っ」

まるで戦場の銃弾の嵐を連想させるように飛んでくる雪玉の中、
謂われのない理不尽とも言えるそれに怒鳴り返せば、言葉と共に容赦のない攻撃。
気付けば、ポポとナナが、俺の陰に隠れていた。
‥たまたまアイスクライマー(こいつら)と一緒にいたもんだから、
同じチーム―つまり、あいつらにとって"敵"だと認識されたって訳か。冗談じゃねぇ。

「てめぇら‥っふざけんなよ!」

次々と飛んでくる雪玉を交わしながら、
俺も雪玉を作ると、大きく振りかぶり雪玉を投げ返す。
何だか知らねぇが、巻き込まれる俺の身も知らないでっ‥。

が。


べしゃっ


「!!」

それが当たったのは、カービィでもヨッシーでもなく―

「‥‥‥‥おい‥‥どういうつもりだ、てめぇ‥。
まさかこの俺に喧嘩でも売るつもりなのか、ファルコ?」

‥運悪くその後ろを通りかかったウルフだった。
顔についた崩れた雪玉を鬱陶しそうに払い落とすと、
ドスの効いた低い声で唸るように呟きながら、こちらを睨み付ける。
瞬間、その殺気にも似た雰囲気に、後ろにいたポポとナナがびくりと震えたのが分かった。

「あ、いや、違っ‥」
「‥んだと?良い度胸してんじゃねぇかよ‥覚悟しろオラァアア!!」
「!おわっ!?ちょ、待っ‥やめ‥っ!」

だが、今の手違いがヤツの怒りに触れた事は間違いないらしく、
こちらの言い分を聞く耳は持ち合わせていないようだ。
狙いを定めるなり、次々に雪玉を投げつけてきやがる。
おまけに、カービィ・ヨッシーのコンビからの雪玉攻撃も加わったため、余計に質が悪い。
‥明らかに歩も悪い。後ろのポポとナナも庇わなきゃならねぇってのに‥。
だが辺りを見渡すと、そう遠くない位置に雪の砦を発見する。
その陰で見え隠れする黄色い頭は―リュカだ。
あそこなら、とりあえずは安全か。そう判断した俺は、雪玉の嵐を何とか避けつつその場へ急ぐ。

「こいつらを頼む!」

そう声をかけると、今度は急いでその場から離れる。
―と、その時。

「!げっ‥!」

急いでいた俺は、辺りに散在していた足跡につまづき、バランスを崩してしまった。
それに乗じて、ここぞとばかりに狙いを定めて飛んできた雪玉。

―危ねぇ‥!

瞬間的にそう考え、腕で急所を覆う。だが、予測した痛みはなく。
不思議に思い顔を上げると、そこにいたのは。

「‥何してくれてんのさ、ウルフ?」
「!フォックス‥!」

何やら鋭い目で正面のウルフを睨み付けているフォックスだった。
いつの間に弾き落としたのか、手から僅かな雪の塊と水が滴っているのが目についた。

「よぉ、フォックス。そいつのマナーがなってなかったみてぇからよ。ちょっとした仕置きみてぇなもんだ」
「だからって、俺のファルコを傷つけて良い理由にはならないよね?
‥そんな無粋な事されるのは見過ごせないよね‥‥来いよ、代わりに相手になってやる」
「あ?てめぇみてぇなのが俺の相手になってやるだ?笑わせるな。だいたい俺とお前とじゃ―へぶっ!?」

本日2度目のダメージ。
不意討ちにフォックスの放った雪玉は見事にウルフの顔の正面にヒットし、無様な声が漏れる。

「笑わせるなだって?それはこっちの台詞だよ、ウルフ。―油断してたら、雪だるまになっちゃうよ?」
「てっめぇ‥‥フォックス‥!!この俺に勝負を挑んだ事を後悔させてやるぜっ‥!!」
「のわぁあああああっ!?」

そして再び、雪玉の嵐。
俺は、間一髪で雪の砦−リュカ達の元へ避難する。
ったく、だいたいどいつもこいつも、何で俺を目の仇にしてきやがる!
巻き込まれた俺は、ある意味被害者だ。

なのに‥。

「ファルコだ!」
「遅いじゃない!待ってたのよ!」
「ファルコさんと一緒なら、心強いですっ‥!
あ‥あの、僕も一生懸命頑張るので‥よろしくお願いします‥っ」

俺に気付いたアイスクライマーにそう言われ、リュカにまで期待の籠った目で見上げられれば、
大人げなく俺の主張を通して撤退する訳にもいかず。
俺は、本日3度目となる諦めにも似た長く盛大なため息を吐くと、
周りのヤツら―アイスクライマーとリュカを一喝するように声を上げる。

「‥仕方ねぇ‥‥おい、チビども!やるからには絶対勝つからな!良いな!?」
「はーいっ!!」

それに、元気よく答える3人。
‥全く、威勢だけは良いもんだと俺は内心呟いた。







―かくして、俺達の雪合戦は幕を開けたのだった。







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