短編

□未だ乾かない涙
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「泣くなよ」

雨が地面を叩きつけるのを見ていると、彼の声とともに私の周りの雨が止んだ
重くて冷たい空気
雨の音がただ響いている

「泣いてない」

実際涙は止まらなくて、でも他人からはわからないくらいずぶ濡れで、今更傘なんて差したところで何の意味もない。
幼なじみの彼はただ黙って私の傍にいた。

早くどこかへ行ってはくれないだろうか、そもそもなぜ彼がここにいるのだろう、部活はもうとっくに終わった筈だ

ふと顔を上げると私に傘を傾けて自分はずぶ濡れになっている彼が目に入る

今更何か言う気にもなれなくて、黙って傾けられた傘を押す
「いいから」
そう言って彼は私の手を押し返した
「…なんで」
その先の言葉は出てこなかった

「…よ」
彼の言葉に遮られたから

「は…」
小さい声だったがはっきり聞こえてきて、涙なんてすぐに引っ込んだ
驚いて彼の顔を見れば雨で濡れていて、いつものセットされた髪は無惨に崩れていた
そんな彼をかっこいいと思ってしまった私は最低だと思う

いや、そんなことより

「だから…チッ」

少し苛立ったように彼はバックからジャージを出して私に掛けた
そのとき、背けられていた彼の顔が見えた


なんで…




「…なんであんたが泣いてんの…?」
彼は慌てて顔を背けたが、私はすぐに傘を持つ彼の手を引っ張った
「…好きだったんだよ…」
お前があいつを好きになる前から

だから


「俺にしとけよ」
あんな奴より


もう一度同じことを言われて、掛けられたジャージが肩から落ちそうになり、慌ててジャージを片手で押さえる。
「帰るぞ」
彼は…南沢はそう言って私の肩をジャージ越しに抱いた
冷えた身体が肩だけ温かい

「…ごめん」

「なんで謝んの」

「気付けなくて」

「…ばーか」
気付かれないようにしてたんだよ
未だ乾かない涙


"私好きな人が出来たんだ!"
そう言ったこいつは今まで見たことがないくらい幸せそうで
俺がさせたいと思ってきた顔で

"ごめん、俺好きな奴居るから"
そう言われたときのこいつの顔は、今まで見たことがないくらい悲しそうで
見たくなかった、させたくないと思ってきた顔で



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