短編
□戯言
1ページ/1ページ
バタンと扉が閉まる音がした
この時間は…あぁ、彼です
私の主人
私は寝床を出て”おかえりなさい”と言って彼に駆け寄ります
もっとも、あなたにはただの鳴き声にしか聞こえないのでしょうが
「ただいま」
それでも分かってくれる君が好きです。
…あれ?でもなんだか元気がありません
どうしたのでしょう…?
”どうしたんですか?大丈夫ですか?”
ベットに座った彼にすり寄ると、彼は私をそっと持ち上げて抱きしめました
「どうしたら…良いんでしょう…」
私の言葉が通じたように呟く彼。
何かあったのでしょう、凄く悩んでいるようです。
もっとも、彼は所謂ネガティブと呼ばれる性格なので、
良くこういった状態になるのですが…
私を抱きしめる手の力を少し緩めて溜息を吐く彼に、
私は頬をすりよせて元気付けます。
「ありがとう」
小さく礼を言う彼に答えて短く鳴くと、彼は私の頭を撫でてくれました。
「お前はいいですよね、悩みが無くて…」
…
鶴正…
私のことを良くわかってくれているあなたでも、
これだけは分かってもらえないのです
私にも悩みはあるのです。
少々腹が立ったので、私は彼の足に爪を立てました
「いっ!」
衝撃で彼の膝から落ちてしまいました。
ふん、いい気味です!
彼はまだ痛がっています。
…でも少し申し訳なくなってきたので、彼の横に座りました。
しかし今のはあなたが悪いのです
私にだって悩みはあるのです。
望みもあるのです
叶うならあなたと会話をしてみたいのです
こうして落ち込むあなたを抱きしめたいのです
慰めたいのです。
あなたが…好きなのです
猫の戯言
私は何故猫なんぞに生まれてきてしまったのでしょうか