短編

□馬と鹿
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私の所属している部活がいつもよりはやく終わり、
帰ろうと校舎を出て、一歩踏み出すと、足に何かが当たった

「サッカー…ボール…?」

反動で転がるボールを慌てて拾い上げて辺りを見渡していると、
遠くから自分を呼んでいる声がした

「名前ー!!」

「?」
声のしたほうを向けば、
50m程先に手を上げている男子が見えた遠くて顔がわからないが、
サッカー部のユニフォームにジャージを羽織っているため、
サッカー部なのだとすぐにわかった

「そのボールー!とってくんねー?」

いや…もう取ってるんだけど…
内心そう思いながらサッカーボールを見えるようにかかげると、
彼は手を上げて静止した

これは投げろってこと…?
この距離を?!

いや普通に考えて無理だろ

「…はぁ…」

しょうがない…
私はボールを持ってサッカー部員へと駆け寄った

近寄らなければ良かった…
近づいてわかった
手を上げていたのは、
紛れもないあの人だった

「蹴ってくれれば良かったのに」
あ、なんだ…
あれって蹴ってくれって意味だったのか
てかサッカー部じゃないんだから、
どっちにしろこんな距離無理だろ

「はい」

「おう、さんきゅ」
ボールを差し出すと、彼は…
浜野はそれを受け取り、
笑ってそう言った

「じゃ」
それだけ言って立ち去ろうとすると、
腕を掴まれた
「…」

「…何?」

「名前…最近俺のこと避けてね?」
「は…」
唐突に何を言いだすんだ

今までの私なら笑いながらそう言っただろう
だが今の私は違う


それはつい最近の出来事で
『浜野くんってかっこいいよね』きっかけは友人の一言で

気付いてしまったのだ
その言葉に嫉妬していた自分に
私は彼が好きなんだと


彼は悲しそうに笑った
そこまでしてなぜ彼は笑おうとするのだろう


「避けて、ないよ」
「嘘、中学に上がってから目も合わせようとしなくなった」

否定する私に即答して彼は真顔でそう言った
彼の真顔なんて久しぶりに見た
いつもへらへらして、ムードメーカーで…
そんなこいつがなんで…こんな…
何も言い返せない自分が嫌になった


「名前さ、俺のこと嫌い?」


違う


「俺、お前のこと好きだから」




頭が真っ白になって
まるで深海に沈んだようにふわふわとして
なにも言えなかった


「あー嫌いな奴に告られても困るよな」
淡々とそう言う彼に、
なんだか涙があふれ出そうで
必死にこらえながら何か言おう言おうとして
なぜか声の出し方がわからなくなって
口だけがぱくぱくと金魚のように動く


違う
違うって
違うんだって



「好き!だから」

やっと出た声は突拍子もない言葉で、
"だから"は凄く間が抜けていて
それでも一度出てしまえば、声の出し方は思い出せた

「あ!…その」

「名前…?」
不思議な顔をしている浜野に、なんだかイラッとくる
浜野が掴んでいた手を振り払ってその手で浜野を指差した

「あんたを嫌いなんていつ言ったんだよ!!私は!!


私は…!あんたが、好きなの!」



そう言い切って浜野を見れば、
浜野の顔は真っ赤で、
そう言う私もたぶん真っ赤で
一拍置いてから

「え…え?!り、両思い?!」

なんて大声で言う彼を私は殴った



馬と鹿


どちらがどちらなのか

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