ゴミ箱

□はめられたのは
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「名無しさんはノボリの事が好きなの?」


戦いを終えてサブウェイを降りて来たクダリが、
14連勝して一息ついていた私を見るなりそう言った。

「・・・は?」

「あれ?気付いてないの?、名無しさん、いつもノボリを目で追ってる」

「なっそっそそそそそんなことな!!・・・い」

小さくなってしまった「い」という言葉。
私の視線の先ではニヤリと笑うクダリ・・・





やられた。



「そっか、じゃあ・・・」



なんで赤くなってるんだろうね?





いつもそっけなくしか話さない名無しさんがこんなにどもるのも、
はじめてみたし!

「僕が名無しさんのはじめてだね!」


変な誤解されそうないい方をされた。

「あんた!」

使い方が違う!!!

なんて言いかわからないけど怒らなきゃいけないのはわかる。
何か言いかけた私の言葉を遮ったのはカランという乾いた音だった。

「ノ・・・ノボリさん・・・」

振り返ればノボリが固まっていて、足もとにはモンスターボールがおちていた。
あの音はモンスターボールだったのか。
不思議にもひどく落ちついた私の脳内。

そうだよ、私は何もやましいことしてないし、説明すれば誤解だってとけるし
焦ったら逆に誤解されてしまうかもしれない。

よし!

「ど、どうしたんですかノボリさん」

笑いかけてもノボリは動かない。
クダリに助けを求めようと、視線を送るとクダリはニコニコと笑っているだけなのだ。

クダリに助け求めても無駄だ・・・

「ノボ「名無しさん様」え、はい」

ノボリが固まったまま私の名前を呼んだ。

「・・・お幸せに」

それだけ言うとノボリはそのまま踵を返して歩いて行ってしまった。


完全に勘違いをされた・・・

「あれ?ノボリモンスターボール忘れてったね」

ハハッとか笑いながらクダリが言う。
誰のせいだと思ってるんだこいつは・・・
しかし大事なポケモンのはいったモンスターボールを置いていくなど、
よほど動揺していたのだろうか・・・


自惚れするわけじゃないが少し嬉しい。

そんなことを思っている場合じゃない!
「あんたあとで覚えときなさいよ!!」

そう叫びながらモンスターボールを拾ってノボリが歩いて行った方へ走る。
後ろからハハッと笑い声が聞こえてきたことは気のせいということにしておこう。




しばらく走ると黒い後ろ姿が見えた
あのコートはノボリだ。
男のあのスピードに追い付くのは体力的にキツイ。

「ノボリ!!」

息も切れ切れに叫ぶと、ノボリは驚いたように振り返った。
しまった、さん付けるの忘れた

「名無しさん・・・」

「!」

様がない・・・
なんだか特別になれた気がして顔が熱くなる。
沈黙が心地悪い。
耐えきれず私は口を開いた。

「ノボリ!わ、私とクダリなんにもないから!!あいつが、か、勝手に変なこと言っただけだから!それに!!私が好きなのは!!・・・」


あっぶな・・・口滑らすところだった・・・



「名無しさん」

呼ばれて俯いていた顔を上げると、ノボリがこっちに歩いてきていた。
その顔は予想に反して笑みを浮かべていた。


「すみません・・・実はインカム、ついてたんです」

なん・・・だと・・・?
・・・ということは最初からクダリとの会話も聞こえていた・・・?


頭がくらくらするくらい血が顔に集まっていくの感じる。


「わたくしは好きですよ、名無しさんのこと。」

名無しさんはわたくしのことをどう思っていますか?


「わ、私は・・・」

教えて下さいまし

「す、好きです!!!」


持っていたモンスターボールをノボリに押しつけて言い切った。




はめられたのは




「・・・まったく二人ともじれったくてみてられないったらないね」

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