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□一週間ぶりの日常
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「ただいま。」

「只今戻りました。」

「紀伊!良かった無事に帰ってきて!」


いつもの様に帰宅した紀伊達の前には大和が待ち構えていたかと思えば、靴さえ脱いでいない紀伊に抱きつく。


「大げさだよ。」

「いやいや、そんなことないよ。でも、来栖野さんの娘さんには良くしてもらったみたいだね。」

「やはり、お知り合いだったのですね。」

「そうだね、お父さんの方には何度かお会いしたことがあるよ。でも、娘さんの方はまだ小さかったから私を覚えてはいないだろうね。」 


まだ紀伊も生まれていない頃だったからね。と大和は付け足し笑った。

貴人に挨拶をするのであれば、安倍晴明の血を引く愛那とその父親と大和が面識があってもおかしくはないだろう。    


「そうだ、帳は?」

「帳ならさっき自室に戻ったばかりだからまだ廊下にいるだろう。貴人さんからの手紙かな?」

「どうしてわかったの?」

「帳は滅多に挨拶にはいかないからね。でも、手紙はちゃんと返してるみたいだよ、本当に変なところで律儀と言うか真面目と言うか……。
 まぁ、兎に角早く渡してきてあげなさい。」

「うん。」






「帳。」

「帰っていたのか。今回は災難だったが……楽しめた様だな。」


大和の言う通り、帳は自室近くの廊下にいた。
一週間ぶりに紀伊を見ても、表情は一切変わりはしないが、どことなくその声は柔らかい。


「うん。これ、貴人さんから手紙。後、いい加減顔出しなさいって。」

「そうか。態々すまなかったな。」


帳は紀伊から手紙を受け取ると、反対の手で紀伊の頭を撫でた。
それに紀伊は少々くくすぐったそうに目を細める。


「紀伊様、奥様がお呼びですよ。」

「わかった。」


柏原に呼ばれた紀伊の姿を見送り、帳は渡された手紙に視線を落とし、封筒から手紙を取り出そうとすると、手元から何かが床に落ちた。

未開封の封筒から察するに、恐らく紀伊が誤って手紙と一緒に帳に渡してしまったと考えるのが妥当だろう。
そう思い帳はそれを拾い上げ、徐にそれをひっくり返した。

白い紙切れの様なものだったそれはどうやら写真だったらしく、その中には可愛らしいドレスに身を包む長い黒髪に青い眼をした人物が写っていた。


「……。」


どこかで見たことがある気がすると言う既視感にも似たものを帳は感じていた。
しかし、それが誰なのか、はたまた何処で見たのかわからずに首をかしげる。


「伏見さん、どうかなさいましたか?」

「……。」

「?」


廊下に屈み込み、首を傾げる帳の様子を見た柏原が声をかける。
しかし、帳は柏原の方を見たかと思えば、もう一度手に持つ写真に視線を戻す。
暫くの間を置き、再び視線を柏原に向けた。






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