本
□拾われました
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突然ですが、
拉致られています。
かくかくしかじか色々あって壮絶な逃亡劇を繰り広げていた私は、
今まさに見知らぬ男性(街ですれ違ったら思わず振り返るくらいの見た目、良い意味で)に姫抱きされて拉致られています。
どうしてこうなった。
それは本当に数分前の出来事――
「いたぞ!こっちだ!!」
「っ!!」
息つくまも無く再び走り出した。
数人で追いかけてくる男性達に、檻に軟禁されていた私が敵う筈もなく、徐々に追い詰められていく。
「全く、手間かけさせやがって。」
「さっさと来いっ!」
「いやっ!!」
そのうちの一人が荒々しく私の腕を容赦なく掴む。
抵抗するが、私の抵抗なんて彼らには対して意味がない。
もう、ダメだ。
諦めよう。
視界が歪み、頬を一筋の涙が伝い落ちる。
私はまた、……。
「少女救済キーーック!!」
「ぐはっ!!?」
……は?
今私の目の前で何かとんでもない事が起きた気がする。
私の腕を掴んでいた男性は謎の人物のかなり勢いのついた飛び蹴りと思われるものが顔面に直撃し、数m飛ばされていた。
正直人ってそんなに飛べるものなんだと思ってしまった。
だけど、どれだけ助走つけたらそうなるの?
私の前に立つその人を見上げると、豪華な衣服に身を包み、立襟の黒いマントを靡かせる長身で黒髪の男性が立っていた。
「な、何だお前は!?」
「貴様らの様な野蛮な奴らに名乗る名などなーい!私の所有地で悪事を働こうとなど、私が認めると思ったのか!!」
「知るか!命が惜しいならその娘をこっちに渡せ!!」
声を荒げる追手2がナイフを取り出す。
それが合図のように3、4、5も武器を取り出す。
因みに追手1はさっき蹴られてから気絶してしまったらしい。
無理もない。
「ハッ!そんな物でこの私を倒せるとでも思ったか!」
そう言い放つと、見知らぬ男性は私に向き直る。
あっけにとられていると途端に浮遊感が私を襲った。
少し遅れてから見知らぬ男性に姫抱きにされていると気がついた。
と、思った矢先に
「捕まっていろ。」
「え?ひゃっ!?」
急に全力疾走し始めやがった。
「なっ!?戦わねぇのかよ!!」
「戦う雰囲気出しやがって!待て!!!」
「私は雑魚は相手にしない主義なんだ!」
「だから知らねぇよ!!お前のポリシーなんてよぉ!!」
そして、今に至ると言う訳です。
しかし、まぁこの時代に拉致なんてよくある話ですし?
そこは置いておきましょう。
ただ私、エルナは底の見えない崖や橋の架かっていない川を軽々飛び越える人間をちょぉっと存じ上げないのであります。
さっき合ったばかりの見知らぬ男性の首に手を回して抱きつくのは如何なものかと思いますが、
放したら私は確実に死ぬ!!
振り落とされた終わりだよこれっ!!
この人、馬とかに勝ってるんじゃない?
速さ勝ってるんじゃない!?
なんなのこの人!!?
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