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□一週間ぶりの日常
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大和から頼まれた貴人への挨拶と言うお使いは、あまりに長いものとなった。
しかし、その一週間は土産話の尽きないものとなった。
「それでは」
「さようなら」
『またね!』
愛那達に別れを告げ、紀伊たちは帰路についた。
見慣れてしまったた風景は次第に消え失せ、再び見慣れた風景に変わったのは数十分後だった。
「……。」
「紀伊様、どうされました?」
「……、何でもない。」
無言で窓の外を眺める紀伊に柏原が声をかけた。
何でもないと首を横に振る紀伊の表情はどことなく寂しそうだ。
同じ京都府内に住む愛那達はともかく、本土から離れた島に住む秋乃達、ましてや異世界から来た真琴達にはそう簡単に会うことは出来ない。
恐らく、そんな事を考えているであろう紀伊に柏原は優しい微笑みを向ける。
「一度出会えたのですから、またお会いできますよ。」
「……、うん。
そういえば、柏原。」
「何でしょうか?」
「エルネットさんが泊まった日、何かあったの?」
「え゛っ?」
「朝、疲れてたから。」
やつれて部屋から出てきた柏原が泣き付いていたのは紀伊の記憶に新しい。
紀伊が疑問に思うのも当然だろう。
かたや、柏原は「エルネットさん」と言う単語にあからさまに笑顔を引きつらせたかと思えば、続く紀伊の質問に頭を抱えていた。
「……宜しいですか、紀伊様。この世にはですね、知らな方が幸せな事もあるのです。」
「言えない事なの?」
「え?」
「エルネットさん、綺麗だったよね。」
「え?紀伊様?何かただならぬ誤解を受けている気がするのですが!?」
「柏原はあんな感じの人が好きなの?」
「!!??」
「そうなんだ。」
「ち、違います!!そもそもあの方は男性ですよ!?それに、私には同性に体を撫で回されて喜ぶ趣味はありません!!
……あ。」
「……大変だったね。」
紀伊は無言で隣に座る柏原の頭を撫でるのだった。
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