第三部

□大嵐
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音もなく、サスケがナルトの横へと現れていた。それも、向かい合う形で、左腕がナルトの首に回されていた。
 
瞬身か。
にしても早く気配も薄かった。
 
動けばナルトを殺る、と、サスケが視線で周りを制す。
 
 
「…そういやお前には火影になるっていう夢があるんじゃなかったか…?オレを追い回す暇があったら修行でもしてりゃ良かったのに…。なぁ…、ナルト」
 
「…サ…サスケ君…!」
 
 
サクラが不安げな声を上げる。
 
 
「だから今度は──」
 
 
スラ…と、サスケが腰に差している刀を抜いた。
脅しではないな。
いつでも動けるように体勢を少し変える。
 
 
「──オレの気まぐれでお前は命を落とすんだぜ」
 
 
切っ先が鞘から抜けた音が響く。
サスケを警戒しながらサイとアイコンタクトを取った。
役割は決まった。あとは動くだけだ。
 
 
「………」
 
 
サスケの言葉で困惑していたナルトの空気が変わった。
 
 
「仲間一人救えねぇ奴が、火影になんてなれるかよ。そうだろ…?
サスケ」
 
 
サスケが鼻で嗤う。
来る。
 
ナルトの背中へ狙いを着けてサスケは刀を振るう。
すぐさま瞬身にて刀とナルトの間に入り込み、サスケの刀を持つ方の手を掴んで動きを阻止した。
その間にサイがサスケの背後へと回り込んで脚を狙う。
膝を痛め付ければこちらが有利になる。
 
しかしサスケは余裕な様子だった。
 
オレの防ぎ方を見て、感想を言うほどに。
 
 
「その防ぎ方、正解だったな」
 
 
なんだこの余裕はと思うと同時に鳥肌が立った。
嫌な予感だ。
一瞬の隙をついてナルトがサスケの腕の拘束から脱出すると同時に、腕を機転に空中で回る、着地と同時にハンマーロックを決めようとしていた。
サイの蹴りはあと数センチで膝に叩き込まれる寸前で、体勢を崩して即座に拘束できるようヤマト隊長が木遁の拘束術を発動していた。
 
だが、オレは叫んだ。
こいつはかくし球を持っている。
 
 
「まずい!!みんな離れ──!!?」
 
 
視界が眩む。
 
 
「ぐあああああああっっっ!!!!!」
 
 
サスケの体から大量の電流が放出され、至近距離にいたオレは防ぐまもなく直撃した。
心臓を直接殴られたかのような衝撃で一瞬の呼吸困難に陥り、体は大量に浴びた電気で痺れて地面へと転がった。
といっても土属性のオレには防いでも結局当たっていただろうけど。
電気のよる筋肉収縮での脱臼や骨折はないから、痺れが取れれば動ける筈だが。
 
 
「……っ…」
 
 
どうやらナルトもサイも直撃したようでオレと同じように地面に転がっていた。ヤマト隊長だけでも無事なのが幸いか。
 
至近距離だったせいで指先まで動かない。
こりゃ参ったなと、接近戦は止めておいた方が良さそうだなと次あった時に対処できるように記録していると、サクラが拳を握り締めて特攻を仕掛けていた。
 
いやいや、無理だよサクラさん。
やるなら地面ごと破壊しないとと動かない体と口で突っ込みを入れていると、ヤマト隊長がサクラの前方に割って入りクナイで刀の軌道を逸らそうと動く。だが、クナイは刀によってゼリーの様にスライスされ、ヤバイと咄嗟に体勢を変えたヤマト隊長の左鎖骨下へと突き刺さり、そのままの勢いで近場の瓦礫へと縫い止められた。
 
 
「その防ぎ方…失敗だったな」
 
「ヤマト隊長!!」
 
咄嗟の判断で心臓直撃は免れたが、かなりまずい状態だ。
サクラの呼び掛けにも答えられない様子だ。手にも力が入ってないようにも見える、恐らくだが、刀にも電流が流れているんだろう。
 
残っているのはサクラのみだが、接近戦しか出来ないのは圧倒的不利。
 
その時、サスケがナルトの方を向く。
ナルトは早くも痺れを脱し始めたらしく、何とかして立ち上がろうとしていた。
ナルトが顔を上げた時、微かに九尾のチャクラが漏れている。なるほど、だから早く回復出来てたのか。
 
 
「!」
 
 
指先が動くようになった。なら、残りは気合いで行ける。
 
 
「くっ…」
 
 
呻きながらもナルトは更に体を起き上がらせる。
そのナルトにサスケは完全に意識が集中していた。ヤマト隊長はその隙に力が入らないながらも印を組み、形勢逆転を狙った。
 
刀が貫通している場所が盛り上がり、木の棒として急成長。刀を弾き飛ばすと同時にサスケの体勢を大きく崩した。同時進行で天地橋で盾として使った半ドーム状の板を形成。このままサスケの退路を断って捕獲作戦を取ろうとしたのだが、そう易々と捕まらない。
すぐさまサスケは上方の木の盾を刀で切りつけて穴を空け、そこから脱出した。
ヤマト隊長が小さく舌打ちをする。
 
登場した時と同じ位置へと戻ったサスケはこちらを見下ろす。
 
オレは気合いで立ち上がり、次に備えて後ろ手で片手印を結ぶ。
 
ナルトがサスケに向かって吼えた。
 
 
「サスケ…、なんで分からねーんだ!!もうじきお前の体は大蛇丸に盗られちまうんだぞ!!!」
 
「そうなったら…、そうなったらだ」
 
「!!?」
 
 
サスケはナルトに哀れみの目を向けた。
 
 
「子供のままだな…ナルト。オレにとっては復讐が全てだ。復讐さえ叶えばオレがどうなろうか、この世がどうなろうが知ったことじゃない。ハッキリ言うとだ、イタチは今のオレでも大蛇丸でも倒せない。だが、大蛇丸にオレの体を差し出すことでそれを成し得る力を手に出来るなら…
 
こんな命、いくらでもくれてやる」
 
 
サスケの言葉にオレは冷めた視線を向けた。
オレと同じ復讐者だが、決定的に違うものを見た気がした。
 
 
「なぁ、サスケ。お前は本当にそれでいいのか?」
 
 
サスケがこちらに視線を向ける。何が言いたいとでも言うように。
オレは両腕を広げてサスケに言う。
 
 
「知っての通り、オレはお前と同じ復讐者だ。どんなことをしても殺してやりたい奴がいる」
 
 
脳裏に浮かぶ奴はいつも笑いながら肉親を食べている。腕を、脚を、腹を、喉を、目を、肉を血を骨を笑いながら。次はお前だと、指を差しながら。
……ああ、今すぐにその首を引きちぎってやりたい。
 
 
「シゲル…」
 
「シゲル、あんた…」
 
「……」
 
 
ナルトとサクラの声かけを無視して、オレはまっすぐにサスケを見る。
良い機会だ。互いの復讐論を語ろうではないか。
 
 
「オレは、是非とも己の手で復讐を成し遂げたい。生きているのを後悔させてやりたい。懺悔されても命乞いされても、オレはこの手で奴の腹を引き裂き臓物を引きずり出して奴の目の前で踏み潰すだろう」
 
 
奴の目の前で徹底的に。
オレの一族が奴の地肉となってしまっているのなら、それを一つ残さず返してもらう。
血の一滴も残さず全て。
再生能力が高いのは承知しているから、それを阻害する策を打つ。なんならオレ自身を致死の猛毒として食わせてやれば、例えそれで死んだとしても、オレは本望だ。
 
 
「己の肉体を犠牲にしてやり遂げるってのは似てるけどよぉ……、くくっ」
 
 
口許に笑みが浮かぶ。
そんなオレとは違ってサスケはなんと合理的なんだろう。
 
 
 
「何を笑ってる」
 
「ははっ!いやぁ、お前は凄いなと思ってさ!オレは絶対に復讐を叶える手段を他人に委ねない。自らの手で終わらせる。お前は、オレと境遇が少し似てるから、そういう感覚も一緒だと思ってしまってたんだよ。だのに、自分の手で終わらせなくても言いなんて言うからさぁ……!!
………だからお前に訊ねたんだよ。本当にそれでいいのか?って」
 
 
サスケの殺気がオレに向いた。
おやおや、逆鱗に触れでもしたかな。
 
 
「シゲル…」
 
「へいへい」
 
 
ヤマト隊長から命令が下る。
意識を戦闘モードに切り替えた。
 
 
「話は終わりだ。ナルトとサクラ…、君達の手前、彼に手荒な真似をしたくはなかったが……」
 
 
ヤマト隊長の雰囲気が暗部のモノへと切り替わった。
 
 
「悪いがもう本気でやるよ。狛犬、いいね?」
 
「了解しました」
 
 
ビリビリと空気が張り詰めていく。
 
 
「木ノ葉か、お前達はもういい……」
 
 
サスケが印を結ぶ。形態は火遁。
 
 
「終わりだ…」
 
 
サスケが手を上へと掲げた。だが、その手を突然現れた大蛇丸が掴んで止めた。
 
 
「その術は止めておきなさい…サスケ君」
 
「離せ」
 
 
 
こらこら、と拘束を解いたカブトがやってきた。
 
 
「また大蛇丸様に向かってそんな口の利き方を…」
 
「…止める理由はない」
 
「今の“暁”の動きを知ってるよね。この木ノ葉の人達には“暁”を始末しておいてもらいたいんだよ。一人でも多くね。他の“暁”に邪魔されると…君の復讐も上手く行かなくなるだろ?」
 
「…情けない理由だな」
 
「復讐の可能性を1%でも上げるためだよ。そうだろ?」
 
 
納得できないような顔だったが、サスケは殺気を解いた。
 
 
「行くわよ」
 
 
大蛇丸の指示で三人が炎に包まれる。
その瞬間、サスケの視線が一瞬だけどこちらを向いた。
 
 
 
 
 
 
 
「さて」と、ヤマト隊長がパンと手を打って暗い空気を入れ換えた。
そしてオレの前にやってくる。
 
 
「シゲル、君は一足先に戻って報告をしてきてもらいたい。あと者類作成も」
 
「…………えーー……」
 
「なんだい不満かい?帰りたがっていたじゃないか?」
 
 
バレてた。
とはいえ上官命令だ。命令は遂行するのみ。
 
 
「了解ですっと。ナルト!サクラ!あとサイ!」
 
 
三人がこちらを向く。
 
 
「ということなんで、オレは一足先に里に戻るわ!お前らも気をつけて帰ってこいよ!」
 
 
印を結んで鷲に変化すると、空高く舞い上がって里へと羽ばたいたのだった。
 
 
 


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