第一部

□不本意ながらも主人公です
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目を開ける。目の前には白い天井があった。そのままの体勢で辺りを見回してみて思う。

ここはどこ?と。


どう見ても自分の家じゃないことは確かで、かといって友達の家でもない。というか、こんな薬品臭い家は嫌だ。


混乱しつつも体をゆっくり起こすと、自分の左手が握られているのに気付いた。皺の入った大きな手。その腕に沿って視線を向ければ、たどり着いたのは爺さんの顔。
うん、誰だろう。


「…おお!」



老人はオレが起きたのを確認した瞬間に顔を輝かせて声を漏らした。



「良かった! シゲル !」


はい?


なぜこの老人はオレの名前を?いやいや、もしかしたら同名の赤の他人の可能性も…それにしてはこの老人 超泣きそうなんですけど。これはあれか、嬉し泣きとかいうやつか?

しかしながら、オレはこの老人の事を全く知らないわけでありまして。お喜びの最中に大変申し訳ないが、人違いであることをきちんと伝えなければ。



「あの…失礼ですけど、どちら様ですか?もしかして誰かとお間違いになられているんじゃ…」


あれ?なんか声が高い気がする。

自分の声に違和感を感じたが今はそんな些細なことに構っていられる余裕はない。まずはこの老人の誤解を解かなくては。


すると老人はオレの言葉に目を見開いて驚愕し、表情を曇らせた。


「 シゲル …何を言うとる、ワシが孫の顔を間違えるわけなかろうが。冗談もほどほどにせんと、ワシの心臓を止める気か」


声が震えている。
無理矢理笑おうとしているのか口元が変な感じで歪んでいた。



「孫…?何言っているんですか?オレのじいちゃんは…」



もう大分前に死んでいる。



そう、言おうとしたのだが言葉が出てこなかった。それは目の前の老人の酷く悲しそうな顔を見てしまったからかもしれないし、握られている手が震えているからかもしれなかった。

でも、言わないと。


人違いだと。



「すみません、でも、オレ貴方を知らないんです」







老人の瞳から静かに涙がこぼれ落ちた。
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