第一部

□火の意思が宿る里
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日々トレーニングという名のリハビリを繰返し、ようやく軽く走れるくらいには回復した頃にオレの退院が決定した。


その間にオレは毎日来る看護師や医者に質問攻めにして、現在のオレの状態やあのじーちゃんとの関係、“オレ自身”の事を調べあげた。

今のオレは記憶喪失と判断されている為になんの不信感も持たれる事もなく色々な事を聞き出せた。こういう言い方は失礼かも知れないが、この時ほど記憶喪失の肩書きを便利だと思ったのは言うまでもない。


看護師にお願いしてもらったメモ帳を整理する。


名前は 草木 シゲル

まさか同姓同名だったとは…

年齢6歳

これは把握ずみ

家族構成5人家族、3人兄弟の末っ子で、上に兄と姉が一人づつ

これは変わらない

以上がオレのプロフィール。


あのじーちゃんは葉渡ウルシと言う名前で、父方の血縁の方でした。

そう言えばオレの知ってるじいちゃんは母方だった気がする。

で、ずたぼろで虫の息状態のオレを息を切らせながら必死に運んできたらしい。
そんで、当時のオレの状態は体の至るところが刀で切られていて、酷い所は内臓にまで達していたらしい。よく生きてたな…オレ。
手術は成功したもののそのまま意識が戻らずに昏睡状態に陥り、ついこの前ようやく意識が戻ったものの記憶喪失。


「あらためて見ると、この“草木 シゲル ”くんは悲惨すぎるでしょ。どうしてこうなった」



オレは調べあげたこれらを見て、ある仮説をたてた。ここは一種のパラレルワールドのひとつで、この“草木 シゲル”はもう一人のオレだった。しかし、何らかの理由によりオレの精神がこちらの草木 シゲルに入り込んでしまった。
いわゆるトリップだとか、成り代わりとか、まぁそんな感じ。

姉の柔軟な思考をさんざん聞かされたのを今更ながらに感謝した。じゃなければ納得できる訳がない、こんなぶっ飛んだ話…。
もう一人のオレと思ったのはもうひとつ理由がある。それはこの前鏡を見て気付いた事だった。


オレを構成している色彩がおかしい。


本来のオレは髪は黒で瞳は焦げ茶だったはずだが、今ではどっこい、外人ですか?並の色合いをしているのだ。

どういう事かと言うと、髪は焦げ茶に瞳が何故か深緑色をしている。オレは日本人のつもりだったのになーと一人混乱してたのが、パラレルワールドという仮説をたてた今では懐かしい。逆に納得した。


なんで最初に気付かなかったのかって?そんなの簡単、テンパってたからだよ。言わせんな。恥ずかしい。
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