§其の壱§

□色香
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マグノリアの魔導士ギルド“フェアリーテイル”。
今日はいつもと様子が違っていた。

ギルドの近くにある海へ、海水浴に行ったのだ。
なぜか、女子だけが。
唯一、ミラがカウンターでせっせと忙しなく働いている。
ナツも紛れてついて行こうとしたが、
“今回は女子だけで親睦を深める”と
エルザに念を押されてしまったため、テーブルでいじけていた。

「あーぁ、つまんねぇな」
テーブルに顎だけ置いた状態で、ナツがつぶやく。
「女子の親睦ってなんだろね、ナツ。まさか密談?」
「どんな密談だよ」
「きっと、おっきな美味しい魚の獲れる場所を
オイラ達に知られないように、みんなで話してるんだよ!」
「なんだとぉ。そんなにうまい魚なのか?」
「あぃ。世界一おっきくて、世界一美味しい魚だよ!」

「その会話、突っ込んだほうがいいのか?」
と、グレイが頬杖をつきながら、聞いてきた。
その奥で、ガジルは大きなイビキを掻きながら昼寝をしている。

「!!」
「どうしたの?ナツ?」

いきなり頭をがばっと上げて、ナツは鼻をクンクンと動かし、
「ギルダーツだ!」
と叫んだ。
ギルドの入り口に目をやると、案の定、
ギルダーツとロキが入ってくるところだった。

「よっしゃぁ。勝負だぁ、ギルダーツ!」
そう言い終わるより早く、ナツは天井に吹っ飛ばされていた。

「なんだ、このむさ苦しい光景は」
「女子がいないねぇ。何かあったの?」
ロキは、吹っ飛ばされたナツを尻目にグレイに尋ねた。
「女子だけで親睦会だとよ」
グレイは、かったるそうに答えた。

「ふーん。それはちょうど良かったかも♪」

ロキとギルダーツは、グレイの真向かいに座り、話を続けた。

「さっきの話だと、ギルダーツは“お香”ってのを焚いてるの?」
「この匂いだろ?香木ってのを使うんだ。
自分の気に入った香を焚く事で、
癒しや精神統一を図れることがあるからな」
確かに、ギルダーツからはいつも、どこか人を安心させる、
頼りがいのある匂いがしていた。

「香には、いろんな種類がある。
それに、いろんな種類を混ぜて
その種類を当てる競技みたいなものもある。
“香を聞く”って言うんだが、結構、奥が深いんだ」

いつの間にか、ナツも同じテーブルに戻ってきていた。

「うん、だからそれとフェロモンとどう関係があるのか、
知りたいんだよ」
ロキのいきなりの話の展開に、
少しまどろんでいたグレイは
頬杖をついていた肘をテーブルから落とした。

「嗅ぎ分けるという意味では、関係がある。
そういえばお前ら、女のフェロモンってのは、
どっから出るか知ってるか?」
ギルダーツは、にやりと笑い、
グレイやナツに問いかけた。
「知るわけねーだろ、そんなもん!」
「オレも嗅いだ事ねぇ」

「そりゃ、お前達はお子ちゃまだからな。
でもそろそろ年頃だ、こういう話を知っていても
いいだろう」
ギルダーツはそういうと、話を続けた。

「女ってぇのは、恋をするとフェロモンが出る。
だが、その匂いは男にしか解らない。
男の方も無意識に感じるものだから、
恋する女のフェロモンに惹かれて
別の男が惚れるってのも、ザラにある話だ」

グレイは、ふと自分の兄弟子を思い出した。

「フェロモンは強力だが、とても微量で
滅竜魔導士のナツ達でさえ、
嗅ぎ分けるのは困難だろう。
だが、それが一気に放出される時がある。
その時は、オレ達にもその匂いが解ると言われている」
そう言うと、ギルダーツはテーブルにいるグレイ達を
ぐるっと見渡した。

「その時ってぇのは…」


「たっだいまぁ〜」
「楽しかったねぇ」
「たまには海で女子会も良いですね」
「ジュビアに海水浴は意味ありません。もともと水ですから」
「まぁそう言うな、皆で楽しめたのだから良いだろう」
思い思いに口を開きながら、女性陣が帰ってきた。
その手には、浮き輪やらバナナボート等があり、
これからそれぞれ着替えをするところだった。

ふと、ジュビアがテーブルの一角に目をやると、
男性陣が額を寄せて話し込んでいるのが見えた。

「グレイ様?何のお話ですか?」
「うわぁ!どっから覗き込んでんだ!」
テーブルの脇からしゃがんで覗き込むジュビアに、
グレイは素っ頓狂な叫び声を上げる。
海から戻ったジュビアの髪は、まだ少し濡れていて
しゃがんでグレイを見上げる仕草は、妙に色っぽかった。
グレイは、今聞いたギルダーツの話が忘れられず、
濡れた水着を着たジュビアの胸元や首筋を
いつも以上に意識してしまう。

「な、なんでもねぇよ!
それより、お前はさっさと服を着て来い!
リオンが来たら、どうするんだ!」
「は?リオン様?」
顔を赤くしてまくしたてるグレイに、
訳の解らないジュビアはきょとんとするばかり。

「なんでもいいから、さっさと着て来い!!」
「はいぃ!」
グレイに怒鳴られ、ジュビアは足早に着替えに行った。

「おい、そんな事で動揺してて、どうするんだよ?」
いつの間にか、ガジルが目を覚まし、呆れてグレイに声をかけた。
「うるせぇ。ほっとけよ」
グレイは相変わらず顔を赤くしてぶっきらぼうに答えた。





おまけ
ロキはギルドを出ると、今日デートする予定の場所へ向かっていた。
“なるほどなぁ、さすがギルダーツ。年の功ってやつかな、やっぱ違うね。
僕も今日から意識して嗅いでみよぉっと♪”

一方ギルドの中では、ナツがルーシィを追いかけ回していた。
「いいだろ、ルーシィ。減るもんじゃねぇんだし」
「ぎゃぁー。だから、一体何なのよぉ。こっちに来るな!
誰か助けて〜」


“はぁ、あいつ等はまだまだお子ちゃまだったか…”
ギルダーツは一人、いろんな意味で後悔していた。





揚羽蝶様
サイト開設ss、ありがとうございました♪
お礼になります。
ちょっと違ったバージョンを書いてみたかったのですが、撃沈でした(泣)
ギルダーツを暴走させようとしましたが、話がこれ以上長くなってしまい…
また、別の機会に…書けたら…うぅ(泣)
しかも、グレジュビ要素が少なすぎ。
修行します。。
これからも、どうぞ、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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