§其の弐§

□Happy Wedding?
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「グレイ様なんて、大嫌いです!!」

突如、ギルド中に響いた声に、その場に居た仲間は一斉に
声のする方へ視線を向ける。
その先には、涙目でグレイを精一杯睨んでいるジュビアと、
そんなジュビアを凄い顔で睨み返しているグレイが居た。

「あぁ、そうかよ!オレもお前みたいな奴は嫌いだね!」

グレイも大声でそう言うと、ジュビアの額に自分の額をピタリとつける。
二人は氷と水の、氷点下スレスレの冷たい火花を散らしながら睨み合い、
お互い一歩も引く気を見せず、その手に魔力を高めていく。

まさに一触即発の、普段の二人からは想像すら出来ない光景に、
それを呆然として見ていたルーシィも流石に慌てる。
「ちょっとちょっと、一体どうしたの?」
「喧嘩か?ならオレも混ぜろよ♪」
楽しそうに、グレイとジュビアの間に割って入ろうとするナツの頭を
ゴンッと鈍い音で叩き、
「何があったんだ?お前達」
只ならぬ魔力の増幅にエルザも口をはさむ。
「そうですよ〜。喧嘩は良くないです」
そう言って、ウェンディもわたわたと二人を引き剥がす。

ジュビアは、その目に涙を溢れんばかりに溜めて、今にも大声で泣き出しそうにしている。
両手をぎゅっと握って拳を作り、その手は怒りからか悲しみからか、小刻みに震えていた。
グレイは、そんなジュビアを見ようともせず、
これまた怒りで顔を歪めながら、頬杖をついて反対の方を向いている。

「…ジュビア、何があった?」
仲裁に入った以上、第三者の目で冷静に判断しなければ…と、エルザは思いつつ、
まず、ジュビアから話を聞こうとジュビアに向き合う。

“普段のジュビアなら、グレイにあんな言葉を言う事は無い。…絶対に。
“大嫌い!”等と…
まさか、変な魔法にでもかかったか、もしかしたら誰かに操られて…?
だからこそ、ジュビアから話を聞かなければ…”

エルザの、包み込むような優しい、それでいて冷静な声は、
怒りと悲しみで頭が熱湯のように煮えたぎるジュビアの心に静かに染み込んでいく。
それでも、瞳から溢れんばかりの涙はこぼれ落ち、彼女の白い頬をつたう。

「さっきまで、二人で良い雰囲気でしゃべってたじゃない?」
ルーシィも、この緊急事態を天変地異でもない限りあり得ないと理解しているのか、
ジュビアの背中を優しくさすりながら、やんわりと話しかける。

そんな二人の優しさが伝わってきて、ジュビアはぐすんっと泣きながら
少しずつ、涙声で話し始めた。


「さっき、グレイ様と結婚式の話をしていたんです。」
「…………え?」
急な話の展開についていけず、エルザとルーシィ、側にいたウェンディが固まる。

“二人は、いつの間にそんな仲になっていたんだろう…
全然、気付かなかった…”

3人は同時にそう思っていた。

「“ジュビア、結婚式はどうしてもウェディングドレスが着たいです♪
白いドレスが一番素敵ですが、カラードレスも良いですよね♪
グレイ様は、どんなドレスがお好みですか?”って聞いたら、
そしたら、グレイ様は結婚式なんかしないって…」
そこまで話すと、ジュビアの声は震え、その瞳にまた涙が溢れる。

「ったりめーだろ!そんな見世物みたいな事、出来るか!!」
その時の会話を思い出したのか、グレイはまた怒りながら声を荒げてしゃべる。

「でも、ジュビアはどうしても結婚式をしたいんです!
ずっと憧れていたんです!」
ジュビアの目からまた大粒の涙がこぼれ落ちる。
「大好きな人と綺麗なドレスを着て結婚式をするって…
みんなから“おめでとう!”って言って貰って、…
それから、それから…」
その後は声にならず、ジュビアはポロポロと涙を流し、堰を切ったように泣き出していた。

「知るか!んな事!」
ったく、やってらんねー、と一人吐き捨てるようにしゃべるグレイに、
エルザはおもむろに近づき、恐ろしいほど冷たい声で
「グレイ、貴様はクズだな」
一言、そう言い放つと、グレイを睨みつける。
仲裁に入ろうと思っていた事などすっかり忘れ、
エルザの中で、特別な感情がふつふつと湧き上がる。

そんなエルザの隣で、氷河の如く冷たい目線でグレイを睨みつけていたルーシィも
「そうよ、あんたってば最低」
低い声でそう言って、グレイの背後に仁王立ちする。
「グレイさん、よくそんな、夢を壊す事が言えますね!」
ウェンディの様子もおかしい。

「何々、ルーちゃん。原因解った?」
そんな中、レビィやカナ、リサーナも話に加わってくる。
「聞いてよ、皆。グレイってばヒドイのよ!」
開口一番、ルーシィはそう言うと皆に事のいきさつを細かく説明する。
それを聞いて皆の表情も硬くなり、それぞれがグレイを睨む。

「ほんと、ヒドイね」
「グレイ、あんたってそこまで夢が無いんだ」
「もう少し成長してるかと思ってたのに…」

ギルドの女子達に囲まれて、その恐ろしいまでの気迫に
グレイは、普段からは想像も出来ないほど真っ青になっていた。

「ちょ、ちょっと待て!話せば解る…と思う。」
そう言うと、グレイはギルドを見渡し、ナツやガジルを探す。
“喧嘩が好きな奴らだ。この状況なら、きっと飛びついてくる…はず?”
ようやく、仁王立ちしたルーシィの背後から
こちらを遠巻きに見ているナツとガジルを見つける。

「お前ら、援護しろよ!」
助けを求めるグレイに、
「いやぁ、今回パスするわ。エルザ含めて、何かいつもと違うんだよな。
今回はまったく勝てる気がしねぇ」
そう言って、若干青ざめている炎の滅竜魔導士に
「そうだね、ナツ。ギルダーツも恐怖は恥じる事じゃないって言ってたしね」
と、もともと体の色が青色のハッピーは、震えながら同意する。
「俺は、売られた喧嘩は買うが、関係ない事には首を突っ込まねぇ主義だ」
鉄の滅竜魔導士もまたそう言うとギヒッと笑い、高見の見物を決め込んでいる様だった。

「往生際が悪いぞ、グレイ!気に入らん!そこへ正座しろ!!」
そんなグレイの態度がますます癇に障ったのか、エルザの怒りは頂点に達していた。
女子達の並々ならぬ気迫と魔力に、グレイは成す術なく座り込む。
すると、先程まで泣いていたジュビアが
「すみません、エルザさん!ジュビアがどうかしていたんです。
グレイ様は悪くないので、もうこのくらいにしてください」
と、グレイの前に両腕を広げて庇うように立ちはだかる。
だが、その目にはまだ涙が溢れていた。

「ジュビア!そういう問題ではない!
グレイには一度きっちり説教をせねばならん!そこをどけ!!」
逆上したエルザは、そう言ってジュビアを怒鳴る。


「はいはい、ストーップ♪
エルザもジュビアもグレイも皆も、そこまでにしようよ♪」
どこからか楽しそうな声が聞こえて、皆が一斉に振り向くと、
そこにはロキがにこやかに立って、手を降っていた。
「この僕、愛の星霊にしてフェアリーテイル1のイケメン魔導士、ロキに任せてよ♪」
「…あんたを呼んだ覚えはないけど?」
ルーシィはそう言うと、それにあんたはただの好色星霊でしょうが!と突っ込む。
「やだなぁ、ルーシィ♪愛するルーシィに会いたくて、
自分からこっちの世界に来てみれば、みんなで恐い顔してグレイを囲んでるんだもん♪」
ここは、僕の出番でしょ?とロキは軽くウィンクする。

そんな、和やかなロキの登場に
「…そうだな、私も頭に血が上り過ぎた。
ここは一旦ロキに任せよう」
エルザは、ため息をつくとジュビアに向き直り、
「ジュビア、すまなかった。あちらのテーブルに戻ろう」
そう言って、テーブルに戻っていく。
ルーシィもジュビアに寄り添いながら、最初に座っていたテーブルに戻る際、
ちらっとロキを見やり“頼んだからね!ロキ!”と目線を投げる。
そんなルーシィの思いを解っているのか、ロキはもう一度ウィンクを返し
「さて、グレイ?あっちで飲もうか♪」
と、座り込んでいるグレイに優しく手を差し出した。
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