§其の参§

□秘めたる決意
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…ピチョン
ギルドの大浴場の天井から水滴の落ちる音がする。
…ピチョン
人気のないその場所で,滴の落ちる音だけが響き渡る。


湯船に浸かりながら一人,
ジュビアは浮かない表情を浮かべた自分の体をそっと抱きしめた。

“…何か,イヤな予感がする”
頭の中でずっと警報が鳴っている。

先程,グレイと共に向かった元評議員の変わり果てた自宅や町を見て
その思いはさらに強く,確かなものになっていた。

“…どうしてこんな事を思うんだろう”
なんの根拠も無いのに,不安で心が押し潰されそうになる。
大浴場に人影が無いにも関わらず,ジュビアはその歪んだ顔を見られないように
無意識に自分の両の手のひらでそっと隠した。


『あんな光景を見た後だ,無理はない』
そう言ったグレイの言葉を素直に肯定できない自分が居る。
『オレがついてる』
そう言ってしがみついているジュビアの腕を握りしめてくれても
その優しさと言いようのない不安に,なぜか泣きたくなった。

“…違う,違うんです,グレイ様”
ジュビアの顔を覆った指から滴が溢れ,湯船の中へと音もなく吸い込まれる。
“ギルドももちろん大切ですが,ジュビアが一番大事なのは…”
ジュビアの体が湯船の中で小刻みに震えると
それに呼応するかのように湯がざわざわと波を立て始めた。

大魔闘演武が終わったあたりから,幾度と無く見る夢。
その度に小さな悲鳴をあげて飛び起き,震える体を抱きしめながら
“これは夢なのだ”と自分に言い聞かせる。

その夢が現実になりそうな気がする。
なんの根拠も無いのに,そう,感じる。
そんな自分がひどくイヤだった。
湯は先ほどよりも激しさを増し,うねりを上げて
今にも浴槽からあふれ出しそうに騒いでいる。


『大丈夫か?お前…』
『…何でもありません。
まだ皆さん戻られてないようですし,少し砂まみれになったので着替えてきます』
ギルドに着くや,ジュビアの顔を覗き込むグレイに
その顔を見られまいとジュビアは足早に大浴場に向かって走っていった。


“……
グレイ様のいない世界など,ジュビアにはなんの意味も無いもの”

不意に,大浴場いっぱいに暴れていた波がしんと静まりかえる。
そこには,最初の静寂が戻っていた。

…ならば,何をしなければならないか
顔を覆っていた手を離し,ジュビアは潤んだ瞳でキッと空を睨む。

“グレイ様を守る!…例え,ジュビアの命に換えたとしても。
ただ,それだけ…”
ジュビアはそう思い立つと,無意識ににっこりと微笑んだ。
“こんな簡単な事,うだうだと悩んでいたなんて”
知らず一人でくすくすと笑っていると
「ジュビアさん!ルーシィさん達が戻ってきました!」
キナナが大浴場の扉を開け,大声で叫ぶ。
「ルーシィ?!
良かった,無事に帰って来たんですね」
ジュビアがほっとするのもつかの間,
「…それが。ナツさんがいないんです」
「? すぐ行きます!」
ザバァァッと湯の中から勢いよく立ち上がり,ジュビアは脱衣所へと急いだ。

その深い海を讃えた瞳には,先程の淡い憂いを帯びた色は既に無く,
強い強い意志を秘めた宙(そら)の如く,どこまでも澄み渡っていた。





うーん,久し振りだとこんなもんなのかしら?w
あっ,先走りネタばれ補完です。すみませんm(_ _)m
グレイにしがみついてるジュビアが,あまりにも不安そうで…
本来の(←w)ジュビアなら小躍りして喜ぶシチュを,あんな表情で描くとは
大魔闘演武編とは逆にジュビアがグレイをかばって…?
なぁんて,妄想したりしてww

グレイの優しさが,フェミニストからではなく,
ジュビアに向けたものだと願いながら…

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