■沖田総司編

□〜花endその後〜
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誰かが私を呼ぶ声がする。
遠くから。遥か彼方から。
それは透き通る様な柔らかい声で。
「千紘…」
私の名を呼ぶ。
誰……?
誰か解らないのに、なんだかとっても懐かしい気持ちになる。
「千紘…」
誰だっただろう。
私はこの声の主を知っている気がするのに…
思い出せない。
「千紘もうすぐだよ」
もうすぐ?
見えない声に尋ねる。
「もうすぐ逢えるよ…逢いにいくよ…」
そしてフワリと温かい風が吹き私を包み込む。
それはとても心地よくて全てを預けてしまいたくなる。
 
 
 
 
 
ジリリリリーッ!!!!
けたたましく鳴る目覚まし時計によって起こされる。
寝ぼけ眼で目覚ましをオフにすると、またまどろみかける。
「千紘!!いい加減起きなさい、遅刻するわよ!」
バンッと勢いよく開いたドアの向こうにお母さんが立っていた。
「学校……?そうだ!今日学校だった〜!!」
時計を見てビックリする。
「わっ!もうこんな時間!!」
慌てて飛び起き、制服に着替える。
 
鞄を取ると部屋を出て階段を降りる。
「千紘、朝ご飯は?」
「ごめんッ、食べてる時間ないや」
洗面所に行き顔を洗って歯を磨くと再度鞄を手に取り玄関に向かう。
 
「いってきまーす!」
玄関のドアを開けて走った。
 
ようやく学校が遠くに見えて来てホッとする。
登校する生徒も何人かいて心細さも消えて行く。
「よかったぁ〜…」
小さく呟く私の背中を誰かが「おはよッ」という声と共にポンっと叩く。
振り返ると幼馴染みの翔太くんだった。
「こんな時間に千紘に会うなんて…珍しいなぁ。寝坊?」
「う、うん」
息切れする呼吸を整えながら答えた。
 
呼吸が落ち着いて来た頃、翔太くんに今朝見た夢の話をする。
「また見たんだよ。あの夢」
「あぁ…誰かが呼んでるっていうアレ?」
あの夢を見るのは今日が初めてじゃなかった。
最初に見たのは、修学旅行から帰って来た日の夜。
それからほぼ毎日あの夢を見る様になって、翔太くんに相談していた。
「毎日見るって何か気持ち悪いけど…でもコワイ夢じゃないんだろ?」
「うん…逆にずっと見ていたいような…心地良い感じ」
「なんだろなぁ〜…予知夢?的な感じなのかな」
話をしている間に学校に着き、教室に向かうと同じクラスの遠野五月(とうのさつき)が教室の前で迎えてくれる。
「おはよ〜!」
クラスの違う翔太くんはそのまま自分の教室に向かう。
 
「翔太バイバーイ。また後でね〜」
五月の声に見送られながら、翔太くんは軽く右手を上げる。
五月は翔太くんの彼女で、翔太くんに紹介されてすぐ、息が合って仲良くなった。
「千紘、今日遅かったね。翔太と一緒になって焦ったんじゃない?翔太いつも遅いからさ」
「うん、正直焦ったよ」
そう言って二人で笑い合い、前から五月にも話していた夢の話をする。
「ホント…なんだろうね。予知夢的な!?ものかな」
「二人して同じ事言ってる〜」
五月と私は席も前と後で近く、間もなくチャイムも鳴りそうだったので、とりあえず席に着いて話す事にした。
「千紘がその夢見出したのって修旅から帰って来た日からだったっけ?」
「うん…」
何故か私は修旅の途中から記憶がない。
どうやっても思い出せない。
それは翔太くんも同じだった。
最終日の自由行動まては覚えてるんだけど…
その少し前辺りから記憶がスポッと抜け落ちている様だった。
その事とあの夢は何か関係があるのかな…
 
 
 
1時間目が終わると、よそのクラスのコが飛び込んで来て興奮ぎみに話してる声が聞こえて来る。
「今日3組に転校生来たんだけどさ、そのコが超イケメンなの!」
3組といえば翔太くんのクラス。
五月と目を合わせ同時に席を立った。
3組の前は既にイケメンが転校して来たという噂を聞き付けてか生徒が集まっていた。
人の隙間をぬって教室の入口に辿り着いた私達は翔太くんを呼んだ。
翔太くんは誰か見慣れないコと話している。
横顔がチラリとしか見えずよくわからない。
「あれが転校生かな?」
五月が小声で言う。
するとその転校生らしきコがこちらを向き、私と目が合うとニコッと笑った。
え…?
もしかして勘違いかもと、辺りを見回し確認するが、やっぱり微笑んでたのは私みたいだった。
それに気付いた五月が、
「ん?千紘知り合いなの?」
と聞く。
「えっ、ううん。全然知らない」
翔太くんは何かを転校生に言うと、私達の所へ来た。
いつもと違う真剣な顔…
「千紘……俺思い出したよ」
「…何を?」
不思議に思っていると翔太くんの後から転校生がやって来た。
近付いて来るに連れ鼓動が早くなる…
なぜだろう。
とてもせつなく、とても懐かしい想いが心の奥底から込み上げて来る。
「沢渡千紘(さわたりちひろ)…ちゃんだよね?」
転校生は満面の笑みを浮かべて、
「やっと逢えた」
と言った。
 
 
 
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