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□寒い冬だから
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ある晴れた冬の日。
外はチラチラと粉雪が舞いピンと張りつめた冷気が体温を奪っていく。

「今日はまた寒いですねぇ…」

ボソッと独り言を漏らしながらアーサーは仕事を片付ける様、いくつかの書類を眺めながら部屋をうろついていた。

部屋の中とは言え、冬になるとどうもダメだ…寒さにはあまり強くなれそうにない。
頭はいつも通り働くようであと少しで今日の分は終わるだろう…
「アーサーさん!」

そんな事を考えて熱中していたら、いつの間にか後ろから姫に抱きしめられていた。


この町の代理姫であり、私の最愛の女性であるフレイ。
いくら付き合っているとは言え、私の仕事場であるこの場所で…と言うのはあまりに恥ずかしかった。

「フレイさん…あの、嬉しいのですが恥ずかしいです…いつディラス君が来るかも分かりませんし…」

そう言うとフレイはバッと身を剥がし、頬を朱に染め始める

……なんて可愛らしいのでしょう。

「ごめんなさい…アーサーさんに会いたくてお仕事終わらせて来たから、つい…嬉しくなっちゃって」


段々と小さくなる声で呟き、視線をさ迷わせるフレイについ、意地悪をしてみたくなるが今は辞めておきましょう。

「フレイさん、今日もお会いできて嬉しいです。」


いつも通りの笑顔を見せると彼女はとても嬉しそうに微笑み、ほんのりと頬を染めるのだ。
私が笑顔を見せるだけでこんなに幸せそうに笑顔になってくれる恋人を持てるなんて、なんて幸せなのでしょう

「外は寒かったでしょう…?耳まで冷えて…」
すっと彼女の耳に手を伸ばせば、想像通りに冷えた彼女の耳たぶ。
やわやわと指先で包めば段々と私の体温が移り彼女の耳を温める。…ただ、それだけのことなのに

「アーサーさんの手、暖かくて気持ち良い…」


なんて幸せそうに微笑むのだろう…
この笑顔を作りだしているのが自分の掌であると言う事実がとても嬉しくて、つい私は彼女を抱きしめていた

「ふぁ、アーサーさん…!?恥ずかしいんじゃ…」

「あぁ…フレイさんも温かいですね…ふふ。」

恥ずかしいけれど、彼女の体温を感じ私の心までが穏やかになっていくのがこんなに心地いいなんて。
私は彼女に出会う事が出来て…彼女と付き合う事が出来てなんて幸せ者なのだろう。

「ふふふ・・」

自然と沸き起こる笑いを私は抑えることができなかった

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