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□似た者同士
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(( 俺は…君と付き合う事になって、とても喜ばしい事ばかりだ。
これからも、もっと君のことを知っていきたいと思っている。だから君も恥ずかしがらずに俺に色々と、見せてくれるか…?  ))

そんな聞き方をするんだもの。私の彼氏様はズルイ。
いつも大人の余裕を感じさせる…包容力のある貴方が、私とお付き合いしてくれているだけでも嬉しくて天にも昇るかのような気持ちになれているって言うのに。
毎日毎日貴方と会って話をする事が出来て…優しい笑顔を一番近くで見られる。
相変わらず子供に対してなのかと感じる位に心配されたり怒られたりもしているけれど私だって貴方と付き合う事が出来て幸せだって伝えたい。…けれど


 嫌わないでいてくれますか…?


きっと貴方なら私を嫌いになんてならないって言ってくれるだろう。
けれど、私の貴方へ向ける気持ちが一般的に言って健全的な思いなのか、はたまた…危ない方向の考えなのかはお付き合い初心者の私には分かる訳もなく。
こういう事はやはり恋愛上級者に聞くしかないけれど相手を選ばないと、これからの町の方々からの対応が…危ぶまれる。

 「やっぱり、こういう事だもん…聞いても怒られないよね…?」

私はもんもんと考えながら目的地の前へと到着していたようで、固く閉ざされた扉に一つ溜息を落とす。 ここで逃げる訳にもいかない。もしかしたら私が…危険な考えをしていたら止めてくれるであろうこの場所からは。
失礼します、と小さく声をかけていつもよりも重く感じる扉を開けた先で、私の相談事は始った。

「あら、ミノリじゃない。どうしたの?」

清潔に白でまとめられた部屋の真ん中で、マリアンが振り返る。
彼女…と呼ぶのも少し躊躇われるが、彼女はこの町唯一の医者である。風邪や怪我等、色々な症状を見てくれる彼女に…この事を相談するのはあながち間違いではないだろう。
心と体よ美しくあれ同盟の彼女なら、私の心が美しくないかどうかを見て貰うにはうってつけだと、ミノリは判断したのだ。マリアンの前にある丸椅子へと腰を下ろすと、ゆっくりではあるが、今の悩みを聞いて欲しくて来た事を伝え、マリアンは何かを感じ取ったのか…アンジェラに相談事は複数人に聞かせる物ではない、と退室を願い…診察室に二人きりになった。

「……で、どうせアイツの事でしょう?ノロケだけは辞めてよぉ?」

ふふ、と小さく笑うとマリアンはきちんと座りなおし、いつもの軽い様子ではなくしっかりとミノリの目をみつめる様子はやはり腕の良い医者で。彼と仲の良い彼女に相談するのを最初は戸惑っていたのを恥ずかしく思う。

「私、おかしくないかって…心配になって。お付き合いが初めてだからって言うのもあるんですけど。皆、こんな気持ちになりながら恋をしているのかなって…分からなくて。」

一度零れ出した言葉は次々と溢れ、少しずつではあったが心の底に眠っていた言葉を紡ぎだせば目の前に居る筈のマリアンが見えなくなる位…私の目の前には彼の色々な表情がチラチラと思いだされる。

「こんなにも好きなのに…怒らせたい。失望させたい。彼がどこまで私を許してくれるのか試してしまいたくなる。私が…浮気したって言ったら彼はどう反応するのか…彼の全ての反応を見たい。感じたい…普通はこうならないんじゃないかって思ったんです。本当に嫌われたらきっと死んでしまいたくなる癖に。いつのまにこんなに歪んでしまったんでしょうね…」

胸が苦しくなる。こんな事を口から出してはいけないって分かっているのに…もう、一人では抱えきれなくなっていて。

「先生…私、引越しでもして彼から遠ざかったら…治るのかなぁ。」

いつも通り笑顔を浮かべようとしても思うようにはいかなくて。きっと今私はとても醜い顔をしているのだろう…心の底にあるドロドロとした物を話してしまったのもあってマリアンの顔を上手く見れない。いつも優しくて心配してくれて…妹みたいに接してくれた彼女をきっと失望させてしまっただろうと思うだけで、こんなに悲しいのに。

「ミノリ…泣かないで。大丈夫よ…大丈夫だから、ね。」

泣いているつもりなどなかったのにいつの間にか頬は濡れていて、その雫を彼女の大きな掌が拭いさってくれる。頬から雫が無くなると彼女に手を引かれ、私は彼女の膝の上へと横向きに座る形となり、彼女の左腕が私の背中を支え…横向きに抱きしめられる様な形になった。

「女性同士だもの、少し位くっついていても良いでしょう?」
クスクスと笑うマリアンにはい、と返事をすると彼女はゆっくりと話し始める。

「皆、そう言う感情を多かれ少なかれ持っているわよ。全部を知りたい。彼の一番の理解者でありたい。嫉妬して欲しい。私だけを見ていて欲しい…それは男だって持っている感情。人間なら持っていて当たり前の感情なのよ、ミノリ…それを醜い、汚いって思ってしまうのは貴女が純粋だから……その気持ちをぶつけても良いの。なんなら私が協力してあげるから、少し待っていて。面白いものが見れるわ」

ふふ、と笑みを浮かべるマリアンに心に平静が戻ってくる。私が感じている感情を皆持っている、大丈夫…と繰り返された事もあるし、彼女に優しく抱きしめられる様な今の状態がとても温かいし、安心するし…やはり人は一人では生きてはいけないなぁ。なんてぼんやりと考えてしまう位私は彼女の腕の中に大人しく収まり、先ほどまでのザワザワとした気持ちもどこかへと行ってしまっていた。
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