お題(ほぼギャグ)
□いったん放そう
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時刻は夕方の六時。公園のベンチに座り、目の前で繰り広げられている攻防戦を眺めながら、一角は深く溜息をついた。
「今度という今度は許さないんだから、弓親!泣いて謝ったって、もう遅いわよ!」
ズガァン!!!
「グハッ!!よくも僕の美しい顔を殴ったな!僕だって乱菊さんが泣いて謝っても許さないからね!!」
バシィッッ!!!
「ゲフッ!!だいたいあんたね、世界で一番美しいのが自分。とか、勘違いもいいとこよ!恥を知れ、恥を!」
ズガァン!ズガァン!
「グガァッ!!今本気で殴ったなぁ!?乱菊さんこそ、自分が一番セクシー。とか思ってるじゃないか!?それこそとんだ勘違いなんだよ!!」
バシィッッ!バシィッッ!
(何でこんな事になってるんだろうなぁ…)
空を仰ぎ、一人呟く一角。
三人で帰っていた。トリートメントの事で和やかに話をしていたはずだ、あの二人は。
それが弓親の何気ない一言から不穏な空気が流れた。
『乱菊さんの髪って、トリートメントする意味あるの?そんなに癖っ毛なのに』
日頃からまとまりの付かない、癖っ毛な髪を嘆いていた乱菊の逆鱗に触れるには十分だった。
そこからこの戦いは始まったのだ。
しかし、腹も減った。収まるどころか、逆に激しさを増していく二人の戦いなど、自分にはどうでもいい。
先に帰ってもいいが、弓親にウダウダ言われるのも面倒くさい。
一角はもう一度溜息をつくと、二人の間に割って入り、各々の右手首をギュッと掴んだ。
「とりあえずよ、お前ら。手に持ってる武器をいったん放そうか。悲惨な状況になってるぞ?」
一角はズイっと、鏡を見せると、二人の顔が見る見るうちに、青くなっていく。
乱菊はバケツを、弓親は柄の長い箒を地面に落とした。
箒で叩かれていた乱菊の髪はボサボサに絡まり、酷く爆発していた。所々、青アザもできている。
バケツで叩かれていた弓親の頭は、ポコポコとタンコブが出来ていた。
自慢の髪も、ボサボサだ。
二人はこの世のものとは思えない叫び声を上げ、陸上選手さながらの良いフォーム(笑)で走り去って行った。
「明日からは、一護と恋次と帰っかなぁ…」
一角の脳裏にオレンジ頭と赤髪の級友の顔が浮かんだ。
変な争いに巻き込まれるのはご免だと思いながらも、結局一護と恋次の喧嘩に巻き込まれる事を、
この時の一角はまだ知らない。
END