A
□平行線
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「これはなぁに?」
首を傾げてそう問えば、鬱陶しがる事も面倒くさがる事もなく。
ギンは、一つ一つ丁寧に、あたしの疑問に答えてくれた。
それが嬉しくて。
ありのままの自分を受け入れてくれるギンが、傍にいてくれる事が嬉しくて。
ギンが望む事なら、何でもしようって覚悟、ちゃんとあったのに。
ギンと同じ世界を見たいと、そう強く思っていたのに。
それすらもギンは、笑顔で拒絶するのね。
ギンはいつも傷だらけで帰ってくるから。
食料や衣類や、薬草などを両手に抱えて。
だけどギンばかりが辛い思いをするのが、あたしは嫌で。
だからその日はちょっと我儘を言った。
「ねぇ、ギン。今度遠出する時は、あたしも連れて行って」
「あかん」
間髪入れずに帰ってくる、優しい声。
ふんわりとした笑顔も変わらない。
なのに、ハッキリとした意志が伺える。
「どうして?あたしだってギンの役に立ちたい。ギンばっかり傷付くなんて嫌なの。あたしは、痛みも辛さもギンと分かち合いたいの」
ギンはあたしの頬を両手で包み込むと、少し悲しげに笑った。
「あかんよ、乱菊。君が傷付くんも辛い思いするんも、僕が耐えられへん。せやから、連れて行けへんよ」
ごめんな?と呟いてから、あたしの唇に軽く口付けた。
「…どうしてよ。あたしだって嫌よ。ギンが一人で傷付くなんて、そんなの嫌なのよ」
「うん、分かってる。ありがとうな?乱菊。せやけど僕は、怖いんや。君が傷付く事が何より怖い」
ギンはあたしを引き寄せ、そのまま強く抱き締めてきた。
あたしもギンの背中に腕を回し、それに応える。
「なぁ、乱菊?ずっと、僕に守らせてぇや。僕が君を、必ず守ったる」
どうしたって、あたしはあんたの隣に立つことを許してくれないのね?
あたし達の主張は平行線のまま。
決して交わる事はない。
隣に立ってあんたを守りたいあたしと、
一歩前に出て、あたしを守ろうとするあんた。
そして月日は流れ、あんたは虚圏へと行ってしまった。
ねぇ、ギン?
何からあたしを守ろうとしているの?
そう聞いたところで、あんたはきっと答えてはくれないんだろう。
肝心な事はいつも、教えてくれなかった。
でもね…。あたしだって怖いのよ。
あんたを失う事が。
だから一緒に連れて行って欲しかったのに。
あんたの為に生きる覚悟、いつでもこの胸にあったのにね。
そんなあたしの気持ち、知ってて置いて行くなんて、
ほんとにあんた、
ずるいんだからーーー
END