A

□いつか必ず
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 『あんた、結局あたしの事信用してないんでしょ?』

 『それなのに一緒にいて、あたし達のプラスになるの?』

 『あたし、今のあんたとは一緒にいれないわ』



 乱菊はそう言うて、家から出て行った。

 一年間の結婚生活は、あっけなく終わりを告げたんや…




****

 あれから三年。僕達の関係は変わらぬまま。



 「市丸さん、また二日酔いですか?」

 もうすぐで会社、ってとこで背後から声をかけられた。

 朝一番に頭に響く声。同じ科で後輩の吉良イヅル。
真面目をそのまま体現したかのようなこの後輩は、何かと僕の世話を焼いてくる。


 「あ〜、ちょっとお姫さんがなぁ…なかなか帰らしてくれへんくて…」

 二日酔いで痛む頭を抑えながら、何とか答える。

 「お姫さん?市丸さん、彼女できたんですか?」

 「いや、彼女やのうて…いたぁ!!」

 言いかけた時、後頭部を何かで殴られた。

 「なっ、何やねん一体」

 振り返ると、昨日僕をしこたま飲ませて自分の愚痴をここぞとばかりにぶつけて来たお姫さん。
もとい乱菊が立っていた。

 
 「らっ、乱菊?いきなり何するん?」

 「あんた、昨夜あたしの部屋にコレ、忘れていってたわよ」

 ズイっと差し出されたのは小さい箱。
確かに昨夜、僕が乱菊に渡したもんや。

 「いや、それ忘れていったんやのうて、乱菊へのプレゼントや」

 少し悲しげな表情を浮かべた後、また憤然とした態度でその箱を乱暴に僕の手に掴ませた。


 「とにかく!これ、受け取れないから。…でも、昨日は付き合ってくれて、ありがと…」


 そう言い残し、乱菊は僕の横を通り過ぎていった。


 スーツに身を包み、姿勢の良い凛とした姿で遠ざかって行く彼女を、僕はイヅルと供に見送った。


 「綺麗な方ですねぇ。あの人が市丸さんの彼女ですか?」

 イヅルは頬を染めながら、まだ乱菊が歩いて行った方を見ていた。

 「いや。彼女やない。元嫁や」

 「そうですか。って…えぇ!!?市丸さん、結婚されてたんですか!?」

 「そんなびっくりする事か?僕、もう29やで。結婚しててもおかしない歳やろ」

 「いや、そうですけど。市丸さんと結婚が結びつかないというか…。でも、離婚された後でも仲が良いんですね」


 「そやね。乱菊は…あっちはどう思ってるか知らんけど…僕には乱菊しかおらんから…」

 手のひらを広げて、さっき乱菊に返された箱を見る。

封は開けてある。

っちゅう言は、中は見てるっちゅう事やな。

 「それ、何なんですか?」

 「これか?指輪」


 受け取ってはくれへんかったけど…。


 僕の過剰な束縛で、壊れてしもた信頼関係。

乱菊が僕以外の誰かと話す事すら許せへんくて、その苛立ちを彼女にぶつけていた。

今思えば、何て幼稚やったんやろ。


 
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