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□やすらぎの場所
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六番隊へ書類を届けた帰り道、廊下を歩いていた乱菊はよく知った霊圧に呼ばれているような気がした。
幼い頃を共に過し、生き方も喜びも悲しみも、何もかもを乱菊に教えた幼馴染の市丸ギン。
ただ、死神になってからはその交流も途切れがちになっていた。
理由は分からない。
ただ、二人の間にはいつしか視えない壁が立ちふさがっていた。
特にギンが五番隊三席になった頃からはその壁がさらに厚くなった気がする。
「…呼ばれてる?」
辺りを見渡すも、自分に霊圧を飛ばす本人の姿は確認できない。
乱菊は軽く溜息をつくと、足早にその場を離れた。
****
霊圧を辿った先は、河沿いの土手だった。
綺麗なコスモスが咲き誇り、その場に着くなり乱菊は思わず声を失った。
「綺麗…」
「せやろ?」
乱菊の呟きに、今は懐かしい幼馴染の声が響いた。
見下ろすと頭の後ろで手を組んで、土手に寝転がるギンがいた。
久しぶりに会うギンは、相変わらずの笑顔を浮かべたまま、乱菊を見上げている。
「これを、見せたかったってわけ?」
「そっ。仕事サボってフラフラしとったら、これ見つけてな。乱菊にも見せたらなって、思ったんよ」
乱菊もギンの横に寝転がる。
ぽかぽか陽気が心地良い。
そして、ギンが隣にいるという事も。
「あんた、花に興味あったっけ?」
「ないけど、乱菊が好きやから」
ー乱菊ー
いつ以来だろうか。ギンにその名を呼ばれるのは…。
やっぱり何か変だ。
乱菊はギンに違和感を覚えた。
それは長い時を一緒に過ごしたからこそ分かる、些細な変化。
「ねぇ、ギン。何があったの?」
視線だけをギンに向ける。
表情は一切崩れない。
「暗闇ん中にたった一人でなぁ。乱菊もおらへんくて…僕は必死に探すんやけど、なかなか見つけられへんくて」
ギンは空を眺めたまま、いつもの口調で語る。
乱菊は特に相槌を打つことなく、ジッと聞いていた。
「や〜っと見つけた、思たら…。乱菊は事切れた後で…僕は冷たなった乱菊の体を抱きしめる…。そんな夢見てなぁ」
ー乱菊に無性に会いたなったんよー
ギンは心の中で、こっそり付け足した。