企画

□九月二十九日
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 出会ってから、何度この日をむかえただろう。

 それほどまでに長く、お互い時を刻んできた。

 だが、ギンにとって乱菊という存在は、出会った時の感動を未だに放ち続ける稀有な存在で。

 
 ーーー違う。

 (っつうか僕、感動とか乱菊以外にした事ないわ…)

 どれだけ時を越えても、乱菊を初めて見つけた時の事を思い出すと、今だに心が震えるのだ。

 あれは、感動であり喜び。

 何も見えない、明日の自分さえ見えなかったあの殺伐とした中で、初めて見つけた唯一の光。

 それは自分の心の大半…いや、全部を占めていて、自分が持つあらゆる感情を捉えて離さない。


 (ほんま、君にイカれとるっちゅう事やね…)

 
 自分の腕に頭を置き、胸に顔を埋めてくる愛しい愛しい存在。

 その金糸の髪をひとつまみ、クルクルといじれば、乱菊がソっと顔を上げた。


 「今、何考えてるの?」

 「何やと思う?」

 「あたしの事でしょ?」

 イタズラが成功した子どものように笑う乱菊の頬に手をやり、ギンもニヤリと笑った。


 「そうや。今だけやない。いっつも僕は、君の事だけを考えとる」

 「…知ってるわ」

 だってあんた、あたしの事大好きだもんね。

 そう続けて微睡む乱菊を、キツく抱き締める。


 ーー違う。 

 (大好きなんてもんやない。どんだけ愛してる言うても伝わりきらんくらい、愛しとる…)


 「うん、知ってるわ」

 心の中の言葉まで、分かってしまうとでも言うのか。

 「当たり前じゃない。あんたの心は、誰よりもあたしが知ってるのよ」

 「乱…」

 「あたしも、そうだもの。どうすればあんたに、伝えられるのかしらね。ギン…」


 その表情が、あまりに美しくて。

 喜びも悲しみも嬉しさも切なさも、全てが混じった笑顔。

 (やっぱり僕には、乱菊しかおらへんな。当たり前やけど)


 「大丈夫や。ちゃーんと伝わっとる。君の想いも、全部な」

 そうかしら、と頬を膨らませた乱菊にキスを落とし、更に言った。


 「誕生日おめでとう、乱菊。僕の世界に色をくれた君を、ずっと愛しとるよ。初めて会うた、あの日から」

 「…ありがと。あたしも、命をくれたギンに感謝してる。でもね、それ以上に、あんたを愛してるわ」


 二人の影はまた重なり、一つとなった。

 
 それはもう数え切れないくらいむかえた、九月二十九日のこと。


 二人の時が動き出した、

 一生分の出会いをした、


 運命の日ーーー




END
 
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