過去拍手
□拍手A
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散歩にかこつけて乱菊に会いに行ったが、行き違いになったらしい事を日番谷に聞いたギンは、ガックリと頭を垂れた。
(なんやねん、乱菊。ご丁寧に霊圧まで消して。何処におるか分からんやん)
それはギンも同じである。
乱菊を驚かせようと、いつも霊圧を消しているのだから。
今三番隊舎に戻ったとて、真面目を全身で着ているような己が副官にゴチャゴチャ言われるのが目に見えてる。
(このままサボったろ…)
いそいそと屋根に登ると、心地良い春風を身に受けながら寝転び、瞬く間に眠りの底へと落ちて行った。
「隊長、遅いですねぇ…」
時計を見ると、既にギンが出てから二時間は経っている。
「何処かで昼寝でもしてるみたいね。せっかくあたしから会いに来たのに」
乱菊と吉良はお茶を飲みながら、甘味をほうばった。
乱菊もこの三番隊舎の執務室に来てから二時間経っていると言う事になる。
そろそろ戻らなければ、日番谷の深い眉間の皺が更に深まり、もれなく怒号まで付いてくる。
書類にかこつけて、ギンに会いに来てみたが、当の本人が帰って来ないのなら意味がない。
吉良に礼を言い、立ち上がった乱菊はドアの方へと歩いて行った。
するとドアが開き、ギンが帰って来た。
「え?乱菊?ここにおったん?」
「そうよ。届ける書類もあったし、あんたに会いたくなって来てみたんだけど、なかなか帰って来ないし」
「え?まさかもう帰るとか言わんよな?」
「帰るわよ?流石に二時間もサボってたしね。ありがとう、吉良。また一緒に語りましょ」
乱菊は吉良にウインクをし、手を振った。
面白くないのはギンである。
会いに行った相手が、まさか自分に会いに来ていたとは。
しかも、自分の副官と何やら楽しげな時間を過ごしたらしいと…。
「何でイヅルとは二時間も一緒におって、僕が来たらすぐ帰る言うんや」
拗ねている。この表情、この口ぶり、拗ねている。
吉良も乱菊も吹き出しそうになるが、何とか堪える。
「あのねぇ?あたし二時間もあんたを待ってたのよ?すぐ帰って来ないギンが悪いんじゃない」
「せやったら、探してくれてもいいやんか。何もイヅルと二時間も二人っきりで楽しそうにせんでも、いいやんか」
拗ねている上にヤキモチまでやいている。
自分以外の男と二時間一緒にいたのが、気に入らないらしい。
「二時間もあったら、乱菊の事二回は抱け」
ドカッ!!!
言い終わらないうちに乱菊の右ストレートが、ギンの左頬に綺麗にキマる。
「酷いわ、乱菊。僕、踏んだり蹴ったりや」
涙を溜めて非難の目で乱菊を見るも、彼女は巨大な怒りマークを貼り付けたままにこやかに笑っている。
「ああ、そう。ならもうあたしの方からは会いに来ないわ。じゃあね、市丸隊長。さっさと仕事でもすれば?」
そのまま乱菊は出て行った。
「え?乱菊?え?乱ちゃん?嘘やんな、乱ちゃーん!!」
その後を追うギンの背中を見つめながら、吉良は深い溜息をついた。
「自業自得っていう言葉、市丸隊長の為にあるのかもしれない」
(さてと、僕は松本さんが持って来た資料でも片付けますか)
どうせギンが帰って来たとしても、今日負ったダメージの為、仕事などするはずがないのだから。
吉良は筆を持ち、書類へと目を向けた。
窓から入ってきた春の風が、とても心地良いように感じた、そんなとある日の出来事ーーー
おしまい。